Memories Off 2nd

【対応機種:ドリームキャスト・プレイステーション ジャンル:アドベンチャー 発売元:KID】

 『繊細な心理描写』と『深い闇の部分』を、どう受けとめるかで印象が違ってきそうなゲームですが、少なくとも私には遊ぶたび姿を変える万華鏡みたいな物語でしたし、スタッフが見せる『手品』のような手腕に圧倒させられた作品です。

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ゲーム紹介と感想

 『メモリーズオフ2nd』は、2001年9月27日(木)に発売されました。ドリームキャスト版とプレイステーション版が同じ日に発売されています。サッカー部を引退した高校3年生『伊波健』が新たな目標を探し求めていく中で、恋人の『白河ほたる』と過ごす日常に少しずつ変化が訪れて…といったアドベンチャーゲームです。

 前作『メモリーズオフ』と直接の関連はなく、登場人物も前作の主人公『三上智也』の悪友『稲穂信』以外は一新されています。とはいえ、世界観は引き継がれていますし、前作を知っていると『なるほど』と思う部分も結構あったりします。

 ちなみに、前作のときは『発売直前まで興味がなかった』と書いていますが、今回も『一周目の途中まで』買うには買ったが特に期待はしていない…といった状況でした。前作への思い入れが深かったからですが、とある文章を見た瞬間に考え方が完全に反転しました。それについては後述したいと思います。

 ゲームシステムは、これまでの作品と同じように遊びやすく作られています。文章の読み返しやスキップはもちろんできますし、ドリームキャスト版『夢のつばさ』にあった、以前の場面に戻れる『クイックロード』なども全て採用されています。また、途中からは特定の女の子を中心とした話に進みますが、そのときに【〜編】と見出しが付くため、これまでよりセーブデータも把握しやすくなっています。

 舞台は真夏のため、それに合わせて陽射しの効果や、ミンミンゼミ、ヒグラシ、ツクツクボウシといったセミの鳴き声など『夏を感じさせる』雰囲気作りがなされています。また、次の文章への合図である『▼』の表示も『くるくる』回る速度が変化したりなど、システム関係はかなりセンスよく仕上げられていると思いました。

 登場人物は『ポップ志向』だった前作と比較して、絵柄も性格設定も『リアル志向』になっていると感じました。幼なじみの『今坂唯笑』『桧月彩花』といった前作の女の子の魅力とは違うかもしれませんが、いずれも『本当に性格がいい』ことを実感できます。

 コメディな部分についても、前作では智也と唯笑の『ぼけぼけコンビ』が繰り広げる不条理世界だったのに対して、今回は『ほたる的ぎゃぐ』が独走している気がします。私の場合『思考停止に』陥ったり『つっこむ気すら』なくなるほどの健の『ひきっぷり』とともに楽しめましたが、このあたりの見方は違いがあるかとも。

 その一方で、ストーリー展開によっては、ほたるを中心に『別れ』が待ち受けていて過去形の前作をこえる『冷たさ』ですが、ほたる役の水樹奈々さんが見事に演じきっていますし、かっさいを浴びるハッピーエンドは十分『救い』になっていると思います。

 さて、ここまで前作との比較を絡めて書きましたが、現在でも全体を通しての評価は前作の方が高かったりします。じわじわと浸蝕される健たちの『心』を繊細に表現した本作も魅力ですが、前作の智也が抱える『日常に埋没した虚無』の深さは圧倒的で、迷走しながらも前に進み見つける『かけがえのない想い』が印象深かったからです。

 が、私の記憶に焼き付けられた文章が二つありまして、いずれも『目の前の世界』が反転するくらいの衝撃でした。でも、その片方は『物語の核心』にふれてしまいますし、私の専門領域ではないため、以下ではもう片方を紹介します。

 それは…とある話での『美しい光景なんだろうと思う。』という健の心理描写でして、この文章を一周目に見た瞬間、これ以上ないくらい引き込まれました。

 まず『〜だろうと思う』ということは、本当に心から『美しい』とは思っていないわけで、健がこういった『斜めに構えた思考』をしたこと自体びっくりしました。ストーリー前半の健は、理由はどうあれ知らない女の子を助けに入りますし、誰かの薦めがあったとはいえバイトを始めたり夏期講習に参加したりと『前向きな一面』を覗かせていたため、私は『前作とは違うな…』と思いながら遊んでいました。

 私にはそう見えた健が、客観で眺めると『美しい光景』に影響されなかった理由は『想い』以外の何物でもなく、気付いてしまった直後の『苦しみ』も理解できただけに、ここから意志を持って行動する姿に素直に感情移入できたわけです。

 さらに、違う話では健たちの心が揺れ動く過程が描かれているのに対して、ここでは『健にとっては』ほとんど揺れを意識できないうちに気持ちが書き換わります。手元の『ハートのエース』がいつの間にか『ジョーカー』に変わっていたから困惑したわけで、だからこそ『突然の告白』に至るまでの心の動きも自然に見えた気がします。

 といっても、遊ぶ側の視点では『両想い』であることも簡単にわかってしまいますが、ある程度『距離を置いた』神の立場から眺めたうえで

が、ちょっとずつ違うことを意識すると印象が変わってくるのではないかと思います。健たちの心情と、遊ぶ側の視点で把握できる状況に『ずれ』があることは感情移入を妨げるかもしれませんが、それでも私にとっては『好きでいたい』話ですし、できれば『好きになってほしい』話だったりするわけです。

 また、このゲームは設定だけ聞くと『修羅場』が繰り広げられると思われそうですが、実際には女の子たちの性格がいいため回避されることも多かったりします。ところが『悲愴な戦いの場面』という国語辞典の定義まで戻ると、ほとんどの話に『修羅場』が存在しますし、しかも『彼女』の場合ふだん自分の欲求を表に出さず穏やかなだけに、私には一番印象深い『修羅場』に感じられました。

 静かに流れる物語を魅力に思うか、たいくつと感じるかは遊ぶひと次第でしょうが、登場人物に感情移入できれば『最低』『地獄』『弾劾』『絶望』といった言葉が飛び交う心理描写をより深く理解できる…かもしれないと思う次第です。そうなれば『彼女』が『元に戻るとは思えない』と感じた対象の結末や『影』以降も実感できるのではと。

 そして最後に、もう一つの魅力である『思わぬ展開』について書きたいと思います。前作にも見受けられた要素ですが、このゲームは多彩な伏線が張り巡らされていて、ときには『フェイク』と言ってかまわないくらいの仕掛けがなされています。読み返して初めて気付くような伏線も多いですし、登場人物の心の動きも理解しやすくなるため『お気に入りの話』は一度だけでなく何回か遊んでみることをお薦めします。

 推理小説を思わせる、それらの伏線は全て『びっくりする場面』を見せるためであり、私は遊んでいて『手品』を連想しました。といっても完璧ではないため、話によっては失敗に思えてしまうこともありましたが、その場合でも違った見どころがありましたし、見事に成功したときの衝撃は、私にとって本当に圧倒的でした。

 幻想的な世界観と音楽による『魔法』を見せてくれる作品も魅力に感じていますが、私の場合もともと『手品』が好きですし、今回は『魔法』かと思ってしまうくらいの領域に近付いたのではないかと思っています。あえて『手品の種』をつつくこともできますが、同時に『踏み込むにはそれなりの、覚悟と勇気が必要』とも感じてしまうわけです。

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