桜子「ううっ、今日も暑いわね」
「丸井高校の校舎は、冷房入ってないからね。
夏休みになるまでは耐えるしかないんじゃない」
桜子「じゃあ、こうしましょう。これから『暑い』って
一回言うたびに100円払う! どう?」
「そんな古典的なルールで涼しくなるわけでも……」
桜子「うるさいわね! なにかで気分を紛らわさないと
がまんできないじゃない。こうも暑いと」
「あ、100円ね。あとでまとめて払うということで」
桜子「うっ……今回は言われた方が払うのよ」
「じゃあ、暑い暑い暑い暑い暑い暑いっと。
これで差し引き500円ね、小野寺さん」
桜子「なに言ってるの。私が言ったら100円払う、
あなたが言っても私に払うのよ。当然じゃない」
「もう。またジャイアンみたいなことを」
和代「フランスの歌謡曲ね」
「江藤さん、それはシャンソン……」
「舞ちゃん、お昼そんなに少なくて大丈夫?」
舞「一気呵成、臥薪嘗胆!
武士は食わねど高楊枝、でございます」
「お金ないんだったら、僕が貸してあげるよ。
なんなら今日はおごってもいいし」
舞「かたじけないことですが、違うでございます。
Mrのお気持ちだけ、受け取るでございます」
「ひょっとして、ダイエットしてるの?」
舞「き、機密事項でございます」
「無理しても、身体によくないと思うけど」
舞「海腹川背、焼肉定食!
無理してないでございます!」
「実は……ものすごく空腹じゃない?」
洋子「あっ、先輩。今日は読書ですか?」
「まあね。読書の秋って言うじゃない」
洋子「その小説って、実は主人公が犯人なんですよね」
「……えっと」
洋子「それとも全員が犯人ってオチでしたっけ……
あ、すみませーん。ネタばらしちゃいましたね。
まだ読みかけだったのに、先輩に申し訳ないです」
「いや、問題ないから」
洋子「へ? どうしてですか?」
「図書室で借りたんだけど、誰かイタズラしててね。
最初のページに結末が書いてあったんだ」
洋子「あっ、それ書いたの私です。あんまりですよね。
アタマに来たんで、思わず書いちゃったんです」
「ほう」
洋子「あ」
麗美「遅くまで練習、お疲れさま」
「お疲れさまです。今日はもうあがりですか?」
麗美「ええ、結構走り込んだから。さすがに疲れたわ。
このペットボトル、ちょっともらっていい?」
「あ、それはちょっと。飲みかけだし」
麗美「別にいいけど」
「え?」
麗美「こまかいわね。おごりじゃなくていいわよ。
君が今度飲みたくなったら、わけてあげるし」
「いや、そういうことじゃなくて……」
琴音「ねえ、こっちこっち」
「ここって、昼休みは人気だから座れないと思うけど」
琴音「大丈夫だって。ほら」
「あ、本当だ。でもこのテーブル、貼り紙してあるよ。
『ペンキ塗りたて』だって」
琴音「それは問題ないわ。今朝、私が貼っておいたの。
あなたといっしょに過ごしたかったから」
「そ、そう。誰にもばれなかったみたいだね」
琴音「大丈夫だったと思うわ。
イスの上に置いた画びょう、そのままだし」
「……やりすぎだって」
「いらっしゃいませ……あ、江藤さん」
和代「バイトさぼってないか、見に来たわ」
「そ、そう。ご注文はいかがいたしますか?」
和代「スマイル」
「はい?」
和代「だから、スマイル」
「かしこまりました。少々お待ちください」
和代「え? 本気に取らなくても……」
「お待たせしました」
店長「にこっ」
和代「……」
「お持ち帰りになりますか?」
和代「するかーっ!」
智香「ねえ、ボクにお年玉くれないかな?」
「いきなり何を。同年代なのに、たかられても」
智香「正月なんだから、いいじゃない」
「並木もくれるならいいけど」
智香「それじゃ意味ないよ」
「でしょ。こっちもテイクがないと」
智香「お金以外じゃ、だめ?」
「え? えっと……」
智香「僕の心は、これ以上ないくらい高鳴った……」
「変なナレーションを入れない!」
「あれ、お醤油が切れてるね。
昨日の買い物のとき、買うって話じゃなかった?」
美樹「……ごめんなさい。買い忘れました」
「今日の夕食に必要なんだけど」
美樹「私が買ってくるんですか?」
「忘れたのは美樹ちゃんなんだから」
美樹「私って、いつも失敗してしまうんですよね。
どうせ『ドジで、のろまなカメ』のままです」
「そんなこと言ってないって」
美樹「言ってます。ひどい……」
「わかったよ。僕が行ってくるから」
美樹「すみません……あ、プリンもお願いします」
「それは却下!」
舞「Mrは、よく学食を使うでございますか?」
「ふだんは弁当だけど、ときどき来るんだ」
舞「そうでございましたか。
何を注文するでございますか、Mr?」
「僕はラーメン。チャーシュー入れようかな」
舞「邪道でございます!」
「えっ?」
舞「質実剛健、花鳥風月!
日本男児たるもの、昼食は和食でございますよ」
「じゃあ、舞ちゃんはどうするの?」
舞「舞は蕎麦が好きなので、カレー南蛮でございます」
「それも和食は半分くらいだけど……」
麗美「あなた達、付き合ってたのね……」
「いや、その」
桜子「何よ。だったら、どうだっていうのよ」
「小野寺さん、戻ってきたの?」
桜子「なんとなく気になって。虫の知らせよ。
それより、これってどういうことなの?」
「……」
麗美「はっきり言ってほしいわね」
「えーと」
麗美「さっき、桜子といっしょにいたじゃない。
はっきり見たのよ、私」
「あなたが見たのは性格のいい小野寺さんですか?
それとも、このいい性格の小野寺さんですか?」
桜子「……」
麗美「こっち」
桜子「答えるなーっ!!」