丸井町の奇妙な日常

Written by 二級抹茶.
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な目次

最近のショートコントへ
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エレベーター

桜子「あ、あれ? エレベーターが急に止まったわ。
   こんなときは非常用の連絡ボタンを……えい!
   え〜、ずっと押しても何も反応ないわ。あ〜ん」
薫 「どうなさったんですかぁ、小野寺先輩?」
桜子「あ、若林さんもいたのね。途中で止まったまま、
   非常用ボタンで呼んでも応答がないのよ」
薫 「あれぇ、もう着いたと思ってましたぁ」
桜子「ちゃんとこの状況を把握しなさいよ、あなた!
   全く外と連絡が取れない、いわば遭難なのよ!」
薫 「そうなんですかぁ」
桜子「う、わざとなのかは知らないけど『寒い』わね。
   ここは雪山かしら。凍死しそうだわ」
薫 「先輩、だいじょうぶですかぁ?」
桜子「あんたのせいよ!」
薫 「けど、あれですよね。よくあることですけどぉ、
   エレベーターの中、いい雰囲気になった二人が
   あんなことやそんなことを、なんてなったら……
   きゃっ、不潔ですぅ」
桜子「よくあってたまるかいっ!
   それにあたしは、オ・ン・ナよ!!」
薫 「もっと不潔ですぅ! 少女二人が繰り広げる、
   めくるめく甘いくだものの世界……」
桜子「あっ、そ。一生勝手にしゃべってなさい。
   あたしは一人で脱出するわよ」
薫 「でも、一体どうやって脱出するんですかぁ?」
桜子「あなた、ボケてるわりには意外と冷静ね。
   けど確かに、どうすればいいのかしら……」
薫 「どうしようもないですねぇ」
桜子「あぁ、まさかこの小野寺桜子様がこんなところで
   短い人生を終えるなんてことになったら……
   ちょっと哀しい一生よね、ううっ」
薫 「あ、そういえば私、携帯持ってましたぁ」
桜子「それを最初に言いなさいよ! で、どう?」
薫 「よいしょっと……圏外ですねぇ」
桜子「あ〜ん、ここだと電波が届かないのね」
薫 「晴れた日はよく届く……はずですけどねぇ」
桜子「んなことが関係あるかいっ!!」

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コアビタシオン

桜子「ねえ、同居するようになってもう半年なんだし、
   もっと自然な感じで付き合うことにしない?」
「え、どういうこと?」
桜子「だって、あなたって家でいっしょにいるときも
   あまり私の顔を見て話してくれないわよね。
   ま、そんな内気なところも結構いいと思うけど」
「そうなの?」
桜子「そうなの! とにかく……これからはあなたにも
   もっと……私のことを気にかけてほしいと思うし
   違う私も見せたいな、と思って……」
「というと、これからは素顔で登場するわけ?」
桜子「だあっ! あたしは八代亜紀かいっ!
   ふだんからほとんど化粧してないっつーの。
   もっと人の顔をよく見なさいよっ!!」

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教科書の落書き

いずみ「おい、次の授業って現国で合ってるよな」
「うん、そうだよ」
いずみ「しっかし、いつもつまんねえ話ばっかだよな。
    大体なんなんだよ、この『檸檬』ってのは。
    『あの気詰りな丸善もこっぱみじんだろう』?
    けっ、てめえが爆発しちまえってんだ」
「そんな言いがかりをつけてもしかたない気が……」
いずみ「うるせえぞ。フケないだけマシと思ってくれ。
    こんな話を書く作者も、シケたツラだよな。
    いっそのこと、マジックでこうしてやるか!」
「ああ、梶井基次郎がアフロヘアーに……」
いずみ「この方が爆発してていいじゃねえか。それに、
    自分のなんだから落書きしようが勝手だろ?」
「まあ、自分の教科書は好きにしていいと思うけど……
 あ、あれ? こっちの教科書、桑原のじゃない?」
いずみ「じゃあ、これは誰のだよ? お、裏に名前が。
    えーと、え・と・う・か・ず・よ……」
「く、桑原、うしろ。つ、机が……」
グオゴゴゴ……
いずみ「わ、私は無実だからな。こいつが勝手に」
「ひどいぞ、桑原。僕は見ていただけで」
和代「アナタたち『問答無用』って言葉、知ってる?」
……合掌。

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学校の階段

美樹「林檎ちゃん、あぶない!」
林檎「えっ? あ、わわわーっ!」
ずででででっ!
薫 「まっさかさまに階段を落ちていきましたねぇ」
桜子「しかも顔面からだし、ちょっと今のは痛そうね。
   池田屋事件みたいに見事な階段落ちだったけど」
美樹「私、階段が近いから注意しようと思ったのに……
   ううっ、私ってどうしていつもダメなのかな?」
桜子「それより、ぴくりとも動かないわよ。早いところ
   保健室まで連れていった方がいいんじゃない?」
薫 「林檎は、重力の影響で地球に向かって落ちる……
   なるほど、これが万有引力の法則なんですねぇ」
桜子「ニュートンしてる場合かっ!!」

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チャンピオン

「ただいま……あ、美樹ちゃん、もう帰ってたんだ。
 でも、どうしたの? そんなに険しい顔して」
美樹「私、見損ないました。3人でも普通じゃないのに
   4人だなんて……いやらしい、不潔です!」
「な、何のこと?」
美樹「とぼけないでください! 部屋を掃除していたら
   この、よ、『4P田中くん』という本が……」
「み、美樹ちゃん。顔真っ赤だけど、それは」
美樹「言い訳なんて聞きたくありません! 最低です!
   もう話すことなんかありませんから。じゃあ!」
「ああ、行っちゃった……『4番ピッチャー』が主役の
 ただの野球マンガだって、読めばわかるのに……」

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僕たちの片想い

智香「ねえ……自分のことを『ボク』って言うの、
   やっぱり変だと思ってる?」
「いや、最近は慣れてしまったから」
智香「ボク、昔は女の子と遊ぶことがすごく苦手で、
   よく『男の子みたい』ってからかわれたんだ。
   泣き虫だったから、ときどき泣くこともあって」
「……」
智香「それで、そんなこと言われても負けないように、
   男の子と同じくらい強くなろうって思って……
   あえて『ボク』って言うのをやめなかったんだ」
「そうだったんだ……」
智香「こんなこと話すの、実は初めてなんだけど……
   ボク、強くなれたかな?」
「うん、並木は今でも十分強いと思うよ」
智香「え……そうかな?」
「大丈夫だって。
 最近は手術で性別も変えられるっていうし」
智香「ちがーうっ!!」

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真夏のリゾート店

琴音「こんにちは。今日はもう一段落?」
「あ、こんにちは。また来てくれたんだね。
 このイスを片付けたら……よし、これで終わりっ」
琴音「いつもバイトお疲れさま。
   はい、ジュースあげる」
「ありがとう……ってこれ、メローイエロー!?
 なんとまあ、マイナーなジュースを……」
琴音「あら、あまり好きじゃなかった?
   私のドクターペッパーと交換してもいいけど」
「う……」
琴音「私、よく入院してたから薬のにおいとか大好きで
   あの薬っぽい味だけで、うっとりしちゃうの。
   あなたも一度飲んでみない? 最高よ……」
「い、いえ。メローイエローでいいです……」

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エスプレッソ

沙也加「コーヒー2つ、お待たせしました!」
「ありがとう、沙也加ちゃん」
智香「ありがと。そういえば、カフェ紅玉館の制服って
   どうして『メイド服』なのかな。知ってる?」
沙也加「さあ、私は聞いていませんけど」
「たぶん、店長の趣味だと思う……」
智香「うっ。まあ、沙也加ちゃんなら似合ってるよね。
   あのいい年した女が着ても似合わないだろうし」
「あ……うしろに」
景子「誰が『いい年した女』ですって?」
智香「や、やだなあ。そんなことないじゃないですか。
   それとも景子さん、自覚でもあるんですか?」
景子「ねえ……こんなガサツな乱暴女なんかほっといて
   お姉さんとメイド服でいいことしない?」
「け、景子さん。いきなり何を」
景子「メイド服の真価は、実は『大人の夜』にこそ
   発揮されるのよ……うふふ。今夜にもどう?」
「……お願いします」
智香「ちょっと待てーい!!」

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ほったらかし遊び

「以前からずっと気になっていたことなんだけど、
 江藤さんのネクタイ、どうして人と違う柄なの?」
和代「ふっ。よくぞ聞いてくれたわね。
   これは『サンダークロス』に変身するための
   ミラクルアイテムなのよ」
「へ?」
和代「実は私、正義の味方だったのよ!」
(というか、悪の女幹部の方が似合いそうだけど……)
和代「ん、何か言った?」
「い、いや。何も」
和代「そう。まあいいわ。
   で、このネクタイは太陽のエネルギーを
   たくわえながら世界の危機に備えているの。
   危険を察知すると、光を放って変身可能に……」
「……」
和代「というのは、全部冗談なんだけどね」
「なるほど」
和代「なるほど……って、それだけ?」
「うん」
和代「……」
「……」
和代「ちょっと! 人がせっかくボケているんだから、
   ここは突っ込むのが礼儀というものでしょ!」
「いや、あまりに突き抜けていて笑えなかったうえに
 どこから突っ込んでいいものかわからなくて……」

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セーラー服と機関銃

「あ、洋子ちゃん。あけましておめでとう」
洋子「……先輩、あけましておめでとうございます」
「どうしたの、小さな声で。
 いつもは元気全開100%みたいな大声で話すのに」
洋子「そんなこと、ないです……」
「やっぱりいつもと違うよ。具合でも悪いの?」
洋子「大丈夫です……」
「財布を落としてしまったとか」
洋子「……違います」
「じゃあ、お腹がすいて声が出ないとか?」
洋子「もう!! せっかく人が物静かにしていたのに!
   おみくじで『女性はおとなしくするのが吉』って
   出たから、今年は物静かなオンナに変身しようと
   努力していたんですよ! それなのに先輩ってば
   言うに事欠いて『お腹がすいたから』ですって!
   先輩って、デリカシーがないこと言うんですね!
   デリカシーがない人って、付き合い始めた途端に
   友達とかにデートのことをべらべらとしゃべって
   それがすごい勢いで学校中うわさになっちゃって
   恥ずかしくて『お嫁に行けないわ』なんてことが
   日常茶飯事なんですよ! 私が付き合うとしたら
   先輩みたいな人は、こっちから願い下げですね!
   今まで『話せる先輩』みたいに思ってましたけど
   これからは考えを変えますから。それじゃ!!」
「ああ……怒って行っちゃった。
 でも、どうしたって不可能だったと思うけど……」

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アフタースクール

すみれ「国見! どこにいるのー」
「洋子ちゃん、すみれさんが呼んでいるよ。
 早く部活に行かないと。怒っているみたいだし」
洋子「先輩……一つ悩み事を聞いてもらえませんか」
「え?」
洋子「私、最近よく考えたりするんですけど、
   一つのことがうまくできないからといって
   それで人間の価値が決まったりしませんよね」
「……」
洋子「うっかり間違えて怒られることもありますけど
   きっと自分にしかできないことがあるはずで、
   ちょっと失敗しても前向きが一番……ですよね」
「僕もそう思うよ、洋子ちゃん」
洋子「そうですよね。ありがとうございます、先輩!
   しっかりしなくちゃいけませんよね!」
「でも、数学のプリントはまだまだ残っているわけだし
 うっかり宿題を忘れて居残っている今の洋子ちゃんが
 何か言ったとしても、あまり説得力ない気が……」
すみれ「国見!! いるなら早く来なさーい」
洋子「うーっ、意地悪なこと言わないでくださいよ。
   すみれさん、終わらせたらすぐ行きまーす!」

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コミュニケーション!

舞 「先輩には、ステディはいるでございますか?」
麗美「え? ステディって、どういうこと?」
舞 「はい、付き合っている殿方でございまする!」
麗美「そうね……この間、同じクラスの男の子が
   『付き合いたい』って言ってきたわ」
舞 「そうでございますか」
麗美「だからトレーニングに付き合わせてあげたの。
   軽く20kmくらい走ったんだけど……終わった後、
   なんかひどくがっかりしてたのよね、彼」
舞 「そ、それは……」
麗美「ちょっとトレーニングが軽すぎたのかしら。
   いつも通り40kmにした方がよかったかも……」
舞 「Oh……それでは本末転倒、七転八倒かと。
   さぞかし意気消沈でございましたでしょう……」

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スキー好き

「いくらなんでも、これはないよね。
 ちょっと限界を超えていると思うんだけど」
沙也加「ふみゅー、そうですね」
「でも、あきらめるしかないのかな……」
景子「あらあら、なーに辛気くさいこと言ってるの。
   あきらめたら負けよ。しっかりしなさい!」
「……」
沙也加「……」
景子「どうしたの? 二人とも黙っちゃって」
「えーと、ここに景子さんのダジャレを全部まとめた
 紙があるんだけど……ちょっときびしいかなって」
沙也加「沙也加も、そう思いました……」
「で、今後も公害としてあきらめるしかないかな、と」
景子「ほっといてよ! 好きで言ってるんだから!」

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ありすめてぃっく

智香「ねえ、3000円貸してくれないかな?
   今月はこづかいが苦しくてさ」
「いいよ、ちょっと待って。
 えっと……とりあえず、はい」
智香「サンキュー……って、2000円しかないけど?」
「うん、千円札があと一枚見当たらなくて。
 もう一つの財布も探してみるから」
智香「……じゃ、じゃあさ。五千円札持ってない?」
「あ、それなら持ってる」
智香「買い物してくずすから、それでいいよ。
   でもって、おつりとして2000円をアンタに」
「うん……あれ?」
智香「そ、それじゃあ、ボクこれから買い物に行くよ。
   ありがとね。こづかい入ったら3000円返すから」
「ちょっと待った!」
智香「な、なにかな?」
「一瞬ごまかされそうになったよ、並木。
 この2000円はさっき僕が渡したお札じゃないか!」
智香「うっ……」
「全くもう。ちゃんと5000円返してもらうからね」
智香「ちぇっ、いいじゃん。
   そんなにケチケチしなくってもさ」
「そういう問題じゃないって……」

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高校デビューへの道

薫「私、好きなんですぅ」
「か、薫ちゃん。どうしたの一体?」
薫「このマンガのキャラ、すごく好きなんですぅ」
「なんだ、やっぱりね」
海老原「そんな簡単にラブは手に入りませんよ、先輩」
「おまえが言うか、海老原……」
薫「それで、コスプレをしていただきたいんですぅ」
「こ、コスプレね……どんなキャラなの?」
薫「えっと、このキャラなんですけどぉ。
  『魁!!クロマティ高校』ってマンガなんですぅ」
「うっ。こ、これはちょっと……」
海老原「先輩、知らないんですか。今人気なんですよ。
    これでラブも引く手あまた、最高値ですよ」
「そんなわけあるかっ!」

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エンドルフィン

洋子「先輩、麻薬っていけませんよね?」
「よ、洋子ちゃん。どうしたの一体?」
洋子「さっきですね、英語の問題集を解いていたら
   『麻薬が彼を幸せにする』なんて文章があって
   私、ちょっとだけ考えてみたりしたんですけど、
   そんな幸せって一瞬だけで絶対よくありませんし
   なんでこんな文章が問題集に書かれているかって
   疑問に思ったりしまして、それで先輩に相談を」
「ちょ、ちょっと待って。それ本当?」
洋子「本当ですって。ここ、見てください。
   ちゃんと『ヘロイン』って書いてありますよね」
「えっと……洋子ちゃん。
 "The heroine makes him happy."
 これ『ヘロイン』じゃなくて『ヒロイン』だよ……」
洋子「や、やだなー先輩。
   ギャグに決まってるじゃないですかー!」
「絶対、違うと思う……」

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何もしてあげられない

「雨降ってますね、外。どうやって帰ろうかな」
景子「かさないから、かさないわよ」
「え?」
沙也加「?」
景子「かさないから、かさないわよ」
「……そうだ、沙也加ちゃん。
 中学校の期末テストって来週からなの?」
沙也加「はい、来週の水曜日から金曜日までです」
「じゃあ、週末はテスト勉強だね」
景子「ちょっとおー、無視することないじゃない」
沙也加「あっ、わかりました!
    『傘』がないから『貸さない』ですよ、先輩」
「わかってたけど、わざわざ解説しなくても……」
沙也加「ふみゅー、すみません。
    でも、つまらなくても返事した方がいいです」
「その言葉の方が、傷口に塩を塗り込んでるけど……
 景子さん座り込んでるし。あ、ついに『の』の字を」
景子「いいんだ、私なんて。どうせ、どうせ……」

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放課後の寄り道

「小野寺さん、ただいま」
桜子「遅いわよ! 今日の家事担当はあなたでしょ。
   こんな時間まで、どこで油売ってたのよ」
「探し物してたら、遅くなっちゃって。本当にごめん」
桜子「ごめんで済めば警察はいらないわよ!
   で、その『探し物』って何だったのよ?」
「え、えーと……」
桜子「ああ、もう! 早く見せなさいよ、それ……え?
   これ、私のイヤリング!? どういうこと?」
「この間、イヤリングをなくしたって言ってたでしょ。
 同じのがないか、探してたら遅くなっちゃって……」
桜子「そうだったの……あ、ありがとう」
「じゃあ、遅くなっちゃったけど食事作るね」
桜子「い、いいわよ。私はもう食べちゃったし。
   それより、あなた夕飯まだなんでしょ。
   手料理作ってあげる。ちょっとしたお礼よ」
「ええっ! そんな『お礼参り』のようなことを。
 まだ許してくれないんだね、小野寺さん。ううっ」
桜子「どういう意味よっ!!」

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決戦は金曜日

林檎「美樹、あれ。見て見て!」
美樹「え、どうしたの?」
林檎「あそこの池。白鳥が泳いでるよ!
   うわあ、すごく綺麗な風景……」
美樹「でも、林檎ちゃん。私たちが見ると優雅な白鳥も
   水面の下では必死にあがいているんだって」
林檎「う。そうかもしれないけど」
美樹「それより、一度食べてみたいな。おいしそう……
   ヨーロッパには白鳥料理のお店もあるんだって」
林檎「……」
美樹「できれば一羽まるごと、焼き鳥にしてみたいな。
   つかまえたら首をつかんで、ジェイソンみたいに
   斧を振るってから、火にかけるの。素敵……」
林檎「美樹……今日かぎりで親友、やめていい?」

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一日違いの誕生日

和代「今日は誘ってくれて、ありがとう。
   思っていたより、面白い映画だったわね」
「祝日だから、ちょっと混雑していたけどね」
和代「でも、とても楽しかったわ。
   それじゃあ、また」
「あ、江藤さん。ちょっと待って!」
和代「どうしたの?」
「これ、プレゼント。江藤さん、今日誕生日でしょ。
 綺麗なブレスレット見かけて、似合うかなと思って」
和代「あ、ありがとう。本当に嬉しいわ。
   もらえるなんて全然、思ってなかったし……」
「江藤さんに喜んでもらえて、僕も嬉しいよ。
 でも……」
和代「でも?」
「その……私服に学級日誌って、すごく不自然な気が」

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もうひとつの可能性

「ただいま」
桜子「あら、おかえり。留守電入ってるわよ」
「えっ、誰から?」
桜子「さあ。お互いに干渉しないって約束でしょ。
   なんか長かったけど、聴いてはいないわ」
「わかった。ありがとう、小野寺さん」
桜子「話はそれだけ。じゃあね」
「じゃ、聞いてみるかな」
……12月23日17時14分、一件です……ピー
「あ、あの。江藤と申し……って、君一人暮らしよね。
 じゃあ、ふつうに話しても大丈夫かな。それにしても
 いきなり誕生日プレゼントなんて非常識、じゃなくて
 さっき逃げ出しちゃったのはびっくりしたからで、
 決して君に気がないわけじゃ……といっても、
 電話しているから気があるって誤解されても困るけど
 とりあえず気持ちだけは受け取っておきたいな、って
 ……あ、でも急に態度を変えたりしないでよ。
 これからも友達ってことで。それじゃ、また明日」
「な、なにが言いたかったんだろう……」

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林檎の新しい機種

舞「何をしているでございますか、Mr?」
「あ、舞ちゃん。今年もよろしく。
 鏡開きしようと思って、その準備を」
舞「オウ、それで木槌を持っているでございますね。
  でもMr、あまり感心しないでございますよ」
「どうして?」
舞「私たちは高校生にございまする。
  未成年たるMrが飲酒とは、言語道断!」
「あっ、酒樽を開ける方じゃないよ。
 鏡もちを割って、お雑煮で食べる新年行事だって」
舞「そうでございましたか。資源再生、敗者復活!
  捨てずに有効利用、まさに日本の心でございます」
「そう言われると、食べたくなくなるけど……」

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月刊小野寺桜子

大森「ねえねえ、この記事なんだけどさ」
「スポーツ新聞なんか学校に持ってきてるの、大森君?
 別に校則で禁止されてるわけじゃないけど……」
大森「もう、固いことは言いっこなしだよ。
   それより見て見て、新山千春に熱愛発覚!
   相手は27歳の超肉体派スポーツマンだって!」
桜子「えええええっ!!」
「えっ、どうしたの小野寺さん?」
桜子「あたし結構ファンだったのよ。ショックだわ。
   そりゃあ、誰を好きになろうと自由だけど……」
「小野寺さんファンだったんだ。ちょっと意外だね」
大森「うん、僕もそう思う」
桜子「だって、全然そんな話聞いたことなかったもの。
   スキンヘッドで怪しいと思ったことはあるけど」
大森「え?」
桜子「あんないい歌声なのに……ううっ」
「……え、えーと、小野寺さん。
 それは新山千春ではなく『松山千春』の間違いでは」
桜子「……」
大森「……」
「……」
桜子「それならそうと早く言いなさいよ!
   あなた、わざと名前を間違えて言ったでしょ!」
大森「え、え、僕は間違えてないよ」
「僕も、小野寺さんのかん違いだと思うけど……」
桜子「あっそ。二人とも『とっても』仲がいいのね。
   つきあったらお似合いかもよ。それじゃあね!」
「小野寺さん、言うに事欠いて……ひどい」
大森「僕は別にかまわないけどね」
「やめーいっ!!」

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ファンシー・メル

薫「あっ、こんにちはぁ」
「こんにちは、薫ちゃん」
和代「あら、若林さん。こんにちは」
薫「お二人は、今日はデートですかぁ?」
和代「ち、違うわよ。私はクラスの秩序を守るため、
   彼が道を踏み外さないように休日も監視を……」
薫「あら、そうなんですかぁ。では、また」
和代「行っちゃった……それにしても、派手な服よね」
「ピンクハウスっていう洋服のブランドなんだって。
 ああいった服も、それはそれで新鮮で好きだけどね」
和代「えっ、そうなの?」
「最初見たときはびっくりしたけど、結構かわいいし」
和代「……あ、あのね」
「江藤さん、どうしたの?」
和代「き、君が着てほしいって言うんだったら
   私も、こ、今度着てみてもいいわよ」
「えっと……ネタとしては面白いと思うけど」
和代「ネタじゃないわよっ!!」

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木花之開耶姫

桂「皆の衆。見よ、あの満開の桜を!
  これぞまさしく、華やぎの季節!!」
「皆の衆って、桂さんと僕しかいない気が……」
桂「男だったら、こまかいことは気にするな。
  さあ、花見といこうじゃないか!」
桜子「あら、見事に咲いているじゃない」
「あっ、小野寺さん」
桜子「やっぱり一面に咲いていると綺麗よね。
   まさに、あたしの名前にふさわしい風景だわ」
「そうか、小野寺さんの名前って『桜子』だったね」
桜子「ええ。でも、一番美しい今が散りぎわなのよね。
   一度散り始めると、そこからは一気に下り坂。
   あたしの美貌も、現在が頂点なのかしら……」
(さ、さすがに自分で言うのは、ちょっとどうかと)
桜子「何か言った?」
「い、いや。一言も口には」
桜子「あたしの空耳だったかしら。まあいいわ。
   でも、本当に心配だわ。美人薄命って言うし、
   桜の花みたいに、すぐに散るのかも……ううっ」
「大丈夫だって、小野寺さん」
桜子「そうかしら……」
「うん。小野寺さんって、神経図太いから。
 あの桜の幹みたいに、ずっと性格は変わらないって」
桜子「フォローになってないわよ!!」

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やさしい教室入門

桜子「ない、あたしのバッグがないわ!!」
薫「それは大変なことですねぇ」
桜子「そうなのよ。前の時間、移動教室だったから
   机の横に置いていったはずなのに、戻ってきたら」
「えーと、小野寺さん。
 ちょっと言いにくいことなんだけど」
桜子「ん?」
「ここ、実は2年生の教室なんだよね。
 小野寺さんの教室、ちょうど真上だったと思うけど」
桜子「……」
「……」
桜子「もう、ごちゃごちゃうるさいわね!
   あたしが言ったら、ここは3年の教室なのよ!!」
「また、天上天下唯我独尊なことを……」

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たのしい教室入門

琴音「ねえ、もう大丈夫だから降ろしていいわ」
「岬さん、だめだよ。
 さっきまで、あんなに苦しそうだったのに」
琴音「でも、抱きかかえられたままで……照れるわ。
   いくら保健室が閉まってたからって、教室まで」
「とりあえず、椅子に座って。連絡してくるから」
林檎「あのー、お取り込み中のところすみませんが」
「あ、林檎ちゃん……ということは」
林檎「ここは1年の教室ですが。間違えてませんか。
   それより先輩。そちらの方って、彼女ですか?」
「えっ、あ、そんなこと聞かれても」
林檎「あたし……じゃなくて、美樹よりそのひとの方が
   大切なんですか? はっきりさせてください!」
琴音「ちょっと、美樹さんって誰のこと?」
「あああ、どうしてこんな事態に……」

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ツタンカーメン

洋子「先輩、相談したいことがあるんですけど」
「……」
桂「右!」
洋子「こんなこと話すの、変かなとは思うんです。
   でも、先輩しか相談できそうな人がいなくて」
「……」
桂「左!」
洋子「ちょっと先輩! 私の話、聞いてますか?」
「聞いてるけど……組体操の途中に話しかけないでよ。
 さ、さすがに7段ピラミッドの一番下はきつい……」
桂「そこ、ぐらついてるぞ! 明日の体育祭本番で、
  わが野球部の気合いを見せつけるのだ!!」

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キャッチ&リリース

「沙也加ちゃん、その定期券どうしたの?」
沙也加「あ、定期じゃなくてSuicaイオカードです。
    紅玉館までの電車に乗るとき、便利なんです」
景子「あら。私も定期券の方、持ってるわよ」
「あれって、定期入れに入れたままでいいんですよね。
 最近はモノレールでも使えるみたいですし。
 あの羽田空港行きの」
景子「モノレールにも乗れーる、わけね」
「……」
沙也加「……」
景子「ちょ、ちょっと。何か言ってよ」
薫「あっ! 次回作のアイデアが浮かびましたぁ」
「えっ。いたの、薫ちゃん」
薫「はい。凍てつく雪山で、遭難する美男子二人。
  厳寒の状況下で……ヒット間違いなしですわぁ。
  ありがとうございますぅ。では、また」
景子「わ、私の存在意義って一体……」
沙也加「あ、あの。えっとですね。
    面白かったら、景子さんらしくないですし」
「それ、全くもってフォローじゃないと思う……」

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生体反応感知不能

智香「こんな人気のないところに連れ込むなんて。
   ど、どうするつもり!」
「どうするっていっても……ここまで来たら
 することは一つしかないと思うけど」
智香「アンタがどうしてもって言うならいいけど……
   やっぱり、ちょっとボクの柄じゃないよ」
「大丈夫だって、並木。ほら」
智香「う……うん。わかったよ。
   へえ、思ったよりいいかも……って、うわあ!
   な、何よこれ。きゃあーっ!!」
たったったったっ……
「行ってしまった……せっかく連れてきたのに」
美樹「さっき、人気がないって話してましたよね。
   やっぱり、私の絵ってダメなんでしょうか……」
「いや、美樹ちゃん。絵自体は問題ないって。
 文化祭の展示のレベルは絶対こえてると思うよ」
美樹「……本当ですか?」
「うん。宣伝すればきっと話題になると思うんだ。
 ただ……並木には、この絵は刺激が強すぎたみたい」
美樹「血もしたたる雰囲気に仕上げたんですけど……」

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デンターライオン

林檎「きゃあっ!」
美樹「ど、ど、どうしたの、林檎ちゃん?」
林檎「あっ。びっくりさせてごめんね、美樹。
   ネズミがいたの。あたしちょっと苦手で」
美樹「そうだったんだ。もういなくなった?」
林檎「と思うけど……ところで、美樹。
   どうしてずっと、私の頭をさわってるの?」
美樹「え、えっと。かじられてないかなと思って。
   たしか昔のCMにあったと思うんだけど、
   『りんごをかじると血が出ませんか?』って」
林檎「ちょっと、美樹! あたしゃ人間よ。
   どっかのネコ型ロボットじゃあるまいしっ!」
美樹「そ、そうだよね。ちゃんと両耳も残っているし」
林檎「反応するところが違うって……」

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運動会プログラム

桜子「あれ。あなた、どうしたの?
   さっき次の競技に出るとか言ってなかったっけ」
「うん、借り物競争の途中なんだ。
 それで、ちょっと小野寺さんに来てもらいたくて」
桜子「えっ、ひょっとして『学園のアイドル』かしら。
   それとも『絶世の美女』が借り物?」
「じ、実は……『トゲがあるもの』なんだけど。
 小野寺さんがぴったりと思って」
桜子「誰が行くかーっ!!」

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雨にキッスの花束を

和代「ちょっと何よ、この花束は!
   机の上になんか置いて、どういうつもり?」
「どうしたの?」
和代「どうしたもこうしたも、君の机の上よ!
   さっきまでは何もなかったじゃない」
「え、えっと、江藤さん?」
和代「クラス委員長として、いじめは見逃せないわ!
   いったい誰が、こんなことしたのかしら」
「江藤さん、昼休み前に自分で言ったじゃない……
 岬さんの入院見舞いに、花を買っておいたらって。
 場所がなかったから、とりあえず机に置いただけで」
和代「……」
「……」
和代「えーと、ほら、私って天然入ってるじゃない?」
「入ってない入ってない」

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はじめの一歩

林檎「あっ……先輩。こんにちは」
「林檎ちゃん、どうしたの?
 なんだか元気がないみたいだけど」
林檎「そんなこと、ないです……」
「やっぱり元気ないよ。いつもと感じ違うし。
 僕でよかったら、いくらでも相談に乗るけど」
林檎「そうですか……ちょっと聞いてくださいね。
   えっと、あたしの『友達』の話なんですけど、
   最近気になっている男の人がいるんです」
「うん」
林檎「それで、今度のクリスマスイブに誘ってみようと
   思っているんです。でも、友達のこともあるし
   どうしようかと、ずっと迷っていて……」
「ひょっとして、それって僕に関係ある?」
林檎「は、はい。あの」
「そうか。美樹ちゃん最近そわそわしてると思ったら、
 そういうことだったんだ。僕の方から誘ってみるよ。
 林檎ちゃんにまで心配かけさせちゃって、ごめんね」
林檎「いや、その」
「ありがとね。それじゃ、また」
林檎「あっ、先輩……行っちゃった。
   ううっ、額面通り『友達』と取られたのね。
   あたし自身のことだったのにぃ……」

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評価レポートの夜

三条「よく来たな。俺はここだ」
「あの、三条さん。いつも思うんですけど、
 どうして夜のグランドなんですか?」
三条「ふっ。それは夜が一番ふさわしいからだ」
「よくわかりませんけど……」
和代「いや、よくわかったわ!」
「え、江藤さん?」
和代「深夜の逢い引き、間違いなく校則違反よ!
   君のこと信じていたのに、見損なったわ」
「ちょっと、なにか誤解してるよ!
 そもそも、どうして江藤さんがここにいるわけ?」
和代「そ、それは君が不純異性交遊してると聞いて。
   いや、異性ではないから不純同性交遊だわ。
   どっちにしても、けがらわしい!」
三条「類は友を呼ぶ……やはり貴様は問題がある」
「ちがーう!!」

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暮らしを見つめる

「小野寺さん、そろそろ起きないと遅刻するよ」
桜子「う〜ん……あたしは低血圧なのよ。
   もうちょっと寝かせて。むにゃむにゃ……」
「もう時間がないんだって。
 火事だよ、起きて!!」
桜子「うぅ、あたしは家事は苦手なの。
   だからあなたは4日で、あたしは3日。命令」
「そんな本音むきだしトークはいいから……
 いい加減、ベッドから出なきゃ」
桜子「春眠……暁を覚えずぅ」
「あっ、あんなところにコサックダンスを踊りながら
 『津軽じょんがら節』を熱唱する松田さんが!」
がばっ!!
桜子「それは大変だわ。どこ、どこ!」
「すごい目覚まし効果だ。どうかと思うけど……」

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粉雪の舞

智香「ほら、もう起きないと遅刻するよ。
   昨日起こしてほしいって、言ってたじゃない」
「すぅ……すぅ……」
智香「まったく、気持ちよさそうに眠っちゃって。
   でも……かわいい寝顔してるんだな」
「……」
智香「な、なんか『目覚めのキス』とか考えたりして。
   そんなのボクの柄じゃないよね、あははっ。
   で、でも……ちょ、ちょっとだけ……」
…………
……
智香「う、苦しい……」
「あ、やっと起きた。もう時間だよ。
 並木、いつまでも寝てちゃだめだって。」
智香「お、おはよう。そういえば頼んでたんだっけ。
   ところで……この口元の枕はどういうこと?」
「起きそうにないから、さっきから置いてみたんだ。
 さすがに鼻までふさぐと危険かと思って、口だけに」
智香「それが夢の原因かーっ!」

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トロと旅する

美樹「もう朝ですよ。起きてください。
   そろそろ起きないと遅刻しちゃいますよ」
「……」
美樹「よく眠っていますね。こうなったら……」
……
「わわっ!」
美樹「やっと起きましたね。おはようございます」
「美樹ちゃん。お、おはよう。
 びっくりしたあ。な、何をしたの?」
美樹「そのヘッドホンから、大きな音を流したんです。
   声は、ホラー映画から悲鳴のシーンを選んで」
「心臓に悪いから、次からはやめて……」
美樹「そうですか? 私はぞくぞくするんですけど」
「…………」

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スクールウォーズ

「桑原、もうすぐ集会が始まるよ」
いずみ「そうか。今回はバイク100台くらいだろ。
    かなり熱く盛り上がりそうだな」
「そうだね」
いずみ「向こうの族には、もう知られているかもな」
「そうだね」
いずみ「……この間みたいに激しい抗争になるぜ」
「そうだね」
いずみ「…………」
「……」
いずみ「ああ、もう! 全校集会だろ、全校集会。
    いい加減、止めてくれたっていいだろ。
    お前が突っ込みを入れないから!!」
「いや、せっかくだからと思って。
 続ける方も、続ける方だと思うけど」

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スペースクリーナー

海老原「あれれ、これはどういうことですかね。
    まるで山のようにトイレットペーパーが」
大森「トーテムポールみたいで、ちょっと壮観だね」
「持ってきた誰かが、とりあえず置いてったのかな。
 たくさんあるわりに、個室は芯のままになってるし」
大森「てっぺんから一つ取っておこうっと。
   よっと……え? あー!」
ぽとっ。
「あーあ、トイレットペーパーが崩れちゃったね。
 水につかったのは、一つだけだからよかったけど」
大森「うーん、一巻き全部だめになっちゃった。
   ボク、人生がイヤになっちゃったよ」
薫「まさに『一巻の終わり』ですねぇ」
大森「……あ、なるほど」
海老原「なかなかナイスなコメントですよ」
「いや、そんなことより」
みんな「ん?」
「ここ、男子トイレなんだけど」

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