天「ねえ、綾瀬。イオン化傾向って、どういうこと?」
優弥「イオン化されやすいってことだ」
天「なにそれ。そのままじゃない」
柚香「綾瀬くん、それだけじゃ説明不足ですよ。
天、金属とイオンが混じっているときを考えて。
元素が、お互いに反応を起こすことがあります」
天「うん」
柚香「このとき、イオン化傾向が強い方が酸化されて
イオンに、もう片方は酸化されて金属になるの。
強い順に、カリウム、カルシウム、ナトリウム、
マグネシウム、アルミニウム……と続きます」
天「それが、ここに載ってる元素なのね。なるほど。
でも、この順番って覚えなきゃいけないわけ?」
優弥「貸そうかな。まあ、あてにすんな。
ひどすぎる借金……語呂合わせで覚えられる。
ほら、参考書のここにも紹介されてるだろ」
天「かそう、か、な。ま、あ、あ、て、に……
あ、覚えられるかも。」
柚香「……」
優弥「どうした、熊野?」
柚香「私には、理解できないです」
天「丸暗記するよりは簡単じゃない、柚香?」
柚香「そのまま記憶した方が情報量が少ないです。
余分なことまで記憶するのは納得できません」
天「……柚香って変。綾瀬だけが私と同レベルなのね」
優弥「一緒にするなーっ!」
天「柚香って、スタイルいいわね。うらやましい」
柚香「そうですか? 天だって素敵と思いますよ」
天「そ、そう?」
優弥「お世辞を本気に取るか」
柚香「綾瀬くん、お世辞では言ってないです」
天「でも、胸が……」
柚香「胸の大きさだけが女性の魅力ではないですよ。
顔立ち、身長、脚の長さ……条件は数多いです」
天「そうだけど」
柚香「天のプロポーションは個性的ってことですよ。
分析すると……有意水準1%で有意ですね」
天「ゆ、有意水準って?」
優弥「簡単に言うと、間違いの確率が1%ということだ」
天「それって、まず間違いなく個性的ってことよね。
単に、私の胸が小さいことしか言ってなくない?」
優弥「大切なのは、そんなことじゃないだろ!」
天「綾瀬……」
優弥「朝霞は学校一のバカだし、グータラの大食いだ。
それに比べたら胸くらい些細なことじゃないか」
柚香「フォローする気なのか、けなす気なのか。
私、綾瀬くんの考えが理解できないです……」
優弥「また歌を聴かせてくれて、ありがとう」
柚香「もう。恥ずかしいんですからね」
優弥「でも熊野の歌、好きだよ」
詩忍「いいや、まだまだ!」
優弥「し、詩忍……どうしてここに」
詩忍「あっちでちょっと夜釣りしてたんよ。
そしたら、なんか歌声が聞こえてきたから」
柚香「綾瀬くんの、お知り合いですか?」
詩忍「まあ、そんなとこ。それより、あなた!
もっと心を込めて歌わないと」
柚香「心を込めて……ですか?」
詩忍「そう」
柚香「よくわからないですが、こんな感じでしょうか。
♪きぃ〜み〜が〜あ〜よぉ〜は〜」
優弥「激しく違う気が……」
楓「ねえ、お兄ちゃん」
優弥「どうした、楓。
今の演習問題、わからないところがあったか?」
楓「ううん。柚香さん……だっけ?
さっきから、こっちを覗き見しているような……」
柚香「お気になさらないでください」
優弥「いや、たしかに俺も気になっていた」
柚香「この間見た昔のドラマを参考にしているんです。
家族の動向を把握することも、大切な仕事だと」
優弥「楓は従妹だし、そのドラマは参考にならない!」
楓「私は別に……言いふらされても気にしないけど」
優弥「なぜ楓も知っているんだ……」