小説紹介と感想

 角川書店から発行されている『ノエル』及び『ル・ソレイユ』のあらすじを紹介します。また、感想についても掲載していきます。

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私なりの目次

  1. あらすじを読んで (2002/02/28)
  2. 小説版ノエルの文章 (2002/03/28)
  3. 初代ノエルの結末 (2002/04/20)
  4. ル・ソレイユの結末 (2002/06/18)
  5. 会話のリズムとテンポ (2002/09/28)
  6. ゲームの小説化 (2002/10/31)
  7. 主人公の心理描写 (2002/12/24)
  8. 初代ノエルの主人公 (2003/10/05)
  9. ル・ソレイユの主人公 (2003/11/03)
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ノエルあらすじ

この夏、ぼくの住んでる海辺の「リゾート」に都会から女の子たちがやってきた。代歩・恵壬・由香の3人はぼくと同じ高校三年生。しかも女子校。どの子もスンゴく可愛くて、みんな魅力いっぱい。誰かを選ぶなんて絶対ムリ! ……いや、もしかしたら、どの子にも相手にされてないんじゃないか? 一発逆転で、全員から告白されたりして!?(妄想だってば……) だから代歩から電話がきたとき、ぼくはうれしくてたまらなかった。これが恋の始まりだったりして。でも3人との「恋路」はなかなか険しくて……。人気沸騰中のゲーム「NOёL」をノベライズした、もどかしくも楽しい恋の物語。

ノエル ル・ソレイユあらすじ

オレ達は大学に「佐野倉MIKAファンクラブ」の名前で登録されているけど、そんなのは有名無実、実際のところ由香の指揮のもと、わけのわからん連中があつまって発明品に取り組んでいる「科学部」になっている。ある日「臨海区の本体は地下にある。上の建造物はダミーなの……」って噂を由香がどこかから聞き込んできた。まあ、一種の都市伝説のひとつだろうと思っていたが、由香が「地底探検隊」なんていうホームページを開設してからはそれが信憑性を帯びてきて、オレも足元には想像がつかない世界がひろがってるんじゃないか、なんて信じ始めた頃、突然由香が失踪した……(また)?

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あらすじを読んで (2002/02/28)

 今回『あらすじ』を打ち込んでいて気が付いたのは、初代『ノエル』では『ぼく』なのに『ル・ソレイユ』では『オレ』と『主人公の一人称』が違うことです。初めて読んだときは特に意識しなかったため、ちょっと意外でした。二人とも行動原理は似ていましたし、私の中ではほとんど同一人物として捉えていた記憶があります。

 また、二つの文章を見比べて感じたのは『ノエル』の主人公の『軽さ』でして、実際に『ふわふわした』性格設定になっているとはいえ『あらすじ』から感じるほど『軽い』とは思っていなかったため、かなりびっくりしました。

 本編を読み進めるかぎり『ノエル』の主人公も問題ないと思いますし、設定の都合上ある程度『ふまじめ』でないと話が成立しないと思うのですが『あらすじ』と同じ印象を持ってしまうと話に入り込みにくくなるはずで、このあたりが評価の鍵になりそうです。

 ちなみに『Memories Off 2nd』の主人公の伊波健は『ぼく』を一人称としていますが、前作の『Memories Off』では主人公の三上智也は『オレ』になっていまして、この文章を書きながら、ふと思い出したりしました。健が『ノエル』の主人公と同じ性格だったら、ゲームを途中で投げ出していたかも…なんて思ったりも。

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小説版ノエルの文章 (2002/03/28)

 私が神山修一さんの小説版ノエルを支持している理由の一つに、文章の軽妙さがあります。主人公の視点を中心に描かれる文章はリズムがあって読みやすいですし、代歩・恵壬・由香の3人だけでなく『魚人間』や『イサミ』といった小説独自のわき役も実際にいそうと思うくらいの存在感があると思います。

 また、状況や場面が切り換わるときの『表題』が

など主人公の心理描写になっていて、そのまま自然に本文へとつながっていくため、さらに軽快な雰囲気を与えている気がします。『合う合わない』はあると思いますが、このスタイルは私にとって新鮮で、一番の魅力だったりします。

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初代ノエルの結末 (2002/04/20)

 初代『ノエル』の最後の場面は、イブの夜に誰と二人きりになったか『はっきりしない』記述になっています。続編『ル・ソレイユ』では『不安定なまま安定した』という発言があったりするため『唯一の答え』はない雰囲気ですが、といっても3人とも同じくらいの確率とは思えず『シュレディンガーの猫』でもない気がしています。

 まず、一番ありそうと思われるのは由香で『ちょっと意外な事実』が発覚したりなど、終盤にかけて『メインヒロイン』と呼んでも問題ないくらい物語を引っ張っていきます。神山修一さんが得意とする知識の披露にも一番性格が合っていて、そのぶん個性が浮き彫りになっている気がします。また、恵壬からの告白も印象深いと思われますし、ピアノに関する『イベント』で主人公を自分の世界に引き込むことに成功しています。

 で、代歩はどうかというと…ちょっと後半の印象がうすい気がしています。ゲームと同じく最初に主人公への連絡を取りますし、桜井智さんの声が聞こえるくらい前半は『らしい』雰囲気で会話を進めていきますが、後半は由香と恵壬の引き立て役…かも。小説の中での存在感は十分あると思っていますが。

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ル・ソレイユの結末 (2002/06/18)

 小説版『ノエル』の続編にあたる作品『ル・ソレイユ』も、誰の気持ちを手に入れたかわからないように描かれていますが、こちらはまず恵壬で間違いないと思っています。表紙は由香がメインで、ストーリーを引っ張っていく役どころも由香だったりしますが、ところどころ恵壬が主人公を意識している『ような』場面が描かれているからです。

 主人公にしても、バイト中に恵壬の自宅から出てくる男を見かけて気にかかったり、さらわれそうになった恵壬を救い出したりと接点が多いですし、最初に主人公と3人が出会ったとき『ごめんなさい……』と言ったのも誰かわからないようになっていますが、3人の中では恵壬が一番確率が高い気がします。

 ちなみに、神山修一さんは『著者略歴』で『この本の続編が書きたい。やっぱ3人分書かないと寝覚めが悪いじゃん?』とコメントしていますが、私の予想が合っていれば続編は代歩がヒロインだったのではないかと。商業的な理由もあって書かれなかった雰囲気ですが『ル・ソレイユ』を見るかぎりは十分期待できそうで、ちょっと惜しいとも。

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会話のリズムとテンポ (2002/09/28)

 小説版『ノエル』は、神山修一さんが著者の一人である『文学再生計画』にも影響を与えたとのことですが、それは『会話』主体で話を進める形式を指しているようです。ビジュアルフォンやチャットの会話だけでなく、通常の文章も主人公の『セリフ』に近い表現で構成されていて、そのうえ純粋な描写とも違和感ないリズムで繰り広げられる文体が、この作品に独特のテンポを作り出しているのではないかと思います。それは続編の『ル・ソレイユ』にも引き継がれていまして、地底探検の軽快さは一押しかと。

 ちなみに、最近はチャットの会話が現れる作品も結構多いですが『ノエル』のころは新鮮に感じた記憶があります。ちょっとびっくりする仕掛けもありまして『ピュアメール』というパソコンゲームの先駆けではないかと思うことも。

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ゲームの小説化 (2002/10/31)

 私はゲームの小説版がお気に入りになることが結構ありますが、たいていの場合『原作が好きならば…』という評価がなされることが多い気がします。基本的に原作の世界観を継承している小説になるため、どうしても有利な部分と不利な部分が生じて大変と思われますが、角川書店の『ノエル』や『ル・ソレイユ』はペダントリと呼ばれる『趣味』や『専門知識』を巧く組み込んで、有利な部分を活かそうとしている作品です。

 特に『ル・ソレイユ』は原作の設定から二年以上あとの話で、しかも夏休みに出会う『ぼく』とは違う人物だったりして、これだけ聞いても不安に思われてしまいそうです。ですが『ノエル』の魅力の一つと思われる『個性』は健在で『キャラが立って』いますし、表紙やストーリーからの第一印象では由香が主役っぽく見えますが、主人公と恵壬の一挙手一投足に注目して読み直すと、また違ってくるかと。

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主人公の心理描写 (2002/12/24)

 以前、小説版『ノエル』の主人公が『ふわふわした』性格と書いたことがありますが、それでも私は結構お気に入りだったりします。本人が深く迷う展開にはならないため、軽妙に話が進みますし、かといって考えが回らないわけでもなく、以下で引用している由香との会話にも性格の『らしさ』は見えるかと思います。

「つまり君がバストのでかい女が好きだってコトだね。恵壬だの赤木舞みたいなさ。君のハードディスクはインターネットで仕入れたザボンみたいな胸のガイジン美女の写真がギューづめになってるってわけだ。そうだね?」
 ぎく……なんでこの女、そんなことを知っている?
 でも、しらを切る。
「だーかーらー、ぼかぁ巨乳フェチでもなんでもないってば」
「でもキライじゃない」
「男だからね」
 この辺でぼくは、勝てない戦いに乗り出してしまったことを悟らされる。
 相手はぼくよりも明らかに頭がよくて、しかも女の子なんだから。

 由香にバストについて議論をふっかけて、切り返されたところから引用しましたが、ちょっと心の中では動揺しても、さらっと流しつつ会話を進める様子が見て取れます。こういったところが、小説やゲームならではの表現と思うことも。

 ちなみに心の中とはいえ『この女』と呼んでいること自体、由香とは気安い関係で、ちょっと代歩や恵壬とは位置付けが違っている気がします。初めて読んでいるときは『ギューづめなのかっ』と、そっちに突っ込みを入れたくなりましたが。

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初代ノエルの主人公 (2003/10/05)

 神山修一さんの小説版『ノエル』を読んだとき、主人公が状況を分析しつつも迷いを見せたり、自らの行動をあとからくやんだりする場面が印象に残ったことがあります。最近はゲームでも結構見かけるようになりましたが『葛藤』が描かれているところが『小説らしい』と当時は思った記憶があります。

 ビジュアルフォンというシステムにより、ゲームの世界に『入り込む』ことを意識したと思われる『ノエル』ですが、神山修一さんの小説は主人公を中心に構成される世界を『眺める』構図になっているように感じました。代歩の視点が転移したと自ら分析する場面や、由香や恵壬に絡んでしまってからの一幕は原作と違った魅力があるかと。

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ル・ソレイユの主人公 (2003/11/03)

 『ル・ソレイユ』という小説は、そもそも『ノエル』の続編か不思議に思ってしまうくらい独自の世界を創り上げていて、女の子たちも主人公も大学生になっていたりします。主人公は『二年間グータラした』年上という設定のためか、前作の小説版『ノエル』と比較すると『語り口』こそ似ていますが、かなり『落ち着いた』印象が見受けられます。

 その一方で、恵壬を助け出したりなど情熱ある側面も見えますし、前作の主人公を知らなかった方が先入観なく見られた気もします。たとえ話ですが、小説版『ノエル』の主人公が『Ever17』の少年みたいな感じとすれば『ル・ソレイユ』の主人公は倉成武と思えるわけです。さらに余談ですが『思わず息をのむようなラインが生まれた』など、恵壬に対する『なまめかしい』描写も『Ever17』を連想した理由の一つではないかとも。

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