複数の意味で『一般向け』なゲームではありませんが『人とのコミュニケーション』と『日常にひそむ狂気』という一見違った、でも実は意外と近い2つのテーマが描かれた作品です。人によると思いますが、私は思わず涙が出た場面も。
『夕焼け −NOVEMBER−』は、Tacticsから2000年1月14日(金)に発売されました。同じクラスの4人の前に謎めいた『少年』が出現して、彼らの日常に変化が訪れる…というノベルタイプのアドベンチャーゲームです。
初めて知ったのは雑誌記事の『Tactics特集』でして、いわゆる『凌辱もの』なことにびっくりした記憶があります。それまでの『ONE 〜輝く季節へ〜』や『鈴がうたう日』に対して、全く違う方向性に見えて『あれ?』と思いました。
でも、絵柄も結構好みで『はずれでもいいかな…』と遊んでみたら『言いたいこと』もわかる気がして印象深く、またこれを書いている時点でちょうど『November』なこともあって感想などを書いてみようと思ったわけです。
まず、ゲームを始めると『警告の場面』が出ますが実際その通りで、だめそうなのに無理して遊ぶと最後の方で衝撃を受けるかもしれません。でも、パッケージの裏面を見て買った方でしたら、予想できる範囲ではないかと。
ゲームは4つのシナリオから構成され、それぞれが違う主人公の話になっています。といっても全く違う話ではなく舞台は共通で、登場人物が複数のシナリオにわたって物語に関与することもあります。さらに『キャラクターが立っている』こともあり、絵柄がきらいでなければ感情移入しやすいのでは…と思います。
以下では、各々のシナリオについて紹介と感想をまとめています。なるべく間接的に書いていますが、遊ぶつもりの方は遊んでから読むことをお薦めします。
バンドでキーボードを担当している『一条俊哉』が、無邪気で天真爛漫な藤宮雅美に次第にひかれて、ついに想いを告白するが…といったシナリオです。最初から選べるシナリオの片方で、二通りのルートが用意されています。
雅美には双子の姉の優紀がいて、性格が正反対で素行もいい姉にコンプレックスを抱いているという設定で『雅美』が中心となって物語が展開するルートと『優紀』の心と雅美の存在に焦点があてられるルートがあります。いずれを選んでもハッピーエンドは見られますが『優紀』ルートの方がわかりやすい感じです。
それでも、話の流れがわかる程度で『謎を残す』シナリオであることに変わりはなく、もうちょっと描写や説明があってもいいような気がしました。全てを壊すバッドエンドはパソコンゲームらしく作られていますし、惜しいと思った部分です。
余談ですが、藤宮姉妹は双子なのに『優紀』と『雅美』で名前が全く違っているのは、くっつけて『ゆうき+まさみ』が由来だからではと思ったことがあります。シナリオ02に津原兄妹が流(ながれ)と麗(うらら)で『流麗』という話がありますから、そちらと同じく『優雅』かもしれませんが、ちょっと気になるところです。
妹との生活のため、学校が終わるとガソリンスタンドでバイトする毎日の『津原流』が霜月ミサキと名乗る女性と出会って親しくなり、流は想いを伝えるためプレゼントを贈ろうと準備するが…といったシナリオです。
私の印象では一番『完成度が高い』シナリオでして、唯と真紀に代表される一連の登場人物も生き生きと描かれているように感じました。また、マニュアルでは二番目に紹介されていますが、ゲームでは一番上に選択肢があってこちらから先に遊ぶことを推奨している感じですし、実際そうした方が遊びやすいです。
ちょっと遊ぶとわかりますが、このシナリオではミサキの存在が中心で、その正体が問題になります。以下わかりにくく書きますが、私は一部の登場人物の区別が付かず『描き分けができていない…』と思っていました。でも、それは『できない』わけではなく『していない』だけだったようで、とあるエンディングまで全然気が付きませんでした。あと『このまま胸で〜』は反則だと思いました。完敗です。
いとこで幼なじみの川嶋涼香から『おにいちゃん』と呼ばれ慕われる『小林京平』は、ちょっとしたきっかけから涼香のことを恋愛対象として意識し始めて…というシナリオで、シナリオ01か02のハッピーエンドを見ると選択できます。
このシナリオから『少年』が本格的に物語に干渉してきますが、基本的には京平が『ふっきる』までの過程が描かれていきます。ハッピーエンドを見ることは簡単ですが、ゲームの最初に『少年』が話すことを踏まえるとバッドエンドも印象深くなってきます。詳しくは書きませんが『全てを失う』こともできるわけです。
一方、好き嫌いはあると思いますが主人公の京平が『三枚目』として描かれていて、途中にある『優紀とゲーセンで遊ぶ』イベントはお互い対照的な性格であることが巧く作用しています。遊ぶとわかりますが『ねこさん』についての京平の心理描写はかなり『つぼ』をとらえていて、ヒットする方が多いのではないかと。
あと、このシナリオでようやく『私服でも制服でも』通学できるといった話が出ますが、もっと最初の方で説明すべきことではないかと思います。女の子は制服姿が多いので『鹿鳴館』と呼ばれる雅美の姿を初めて見たときはびっくりでした。
これまで学校で一人きりの『羽崎正宏』にとって心を休める指定席であった屋上に、今村渚が来るようになり毎日話しているうちに仲良くなっていくが…というシナリオで、シナリオ03までハッピーエンドを見ると選択できるようになります。
このシナリオだけ『少年』は相手を『正宏』と名前で呼び、より直接的に介入します。そして『少年』が『ひどい場面』と呼ぶ話が展開され、それはいわゆる『凌辱』シーンなわけですが、同種のゲームと違っていそうな部分としては『女の子が一人称』となって被害者の視点から話が語られていくことがあげられます。
それ以前のシナリオで『感情移入』しているかどうかで印象は違うかと思いますが、かなり残酷な描写も見られ、登場人物に対して容赦のない展開が繰り広げられます。といっても、必ずしもそれが制作者の主目的ではなく、人の『強さと弱さ』というものを一番伝えたかったのではないか…という気がしています。
また、シナリオ01〜04の全てのエンディングを見ると『パーフェクトエンディング』を見ることができます。物語を締めくくる『あるふたりのエピローグ』が語られますので、シナリオ04のエンディングまで遊んだ方はこちらの方も見ておくことをお薦めします。いくつか謎は残りますが、なかなか印象的な場面が見られます。
『夕焼け』の登場人物一覧を作ってみました。基本的には、エンディングのキャストに記載されている人物に限定しています。また、誰がどのシナリオに登場しているかも表にまとめました。記号の基準は以下の通りです。
名前 . 01 . . 02 . . 03 . . 04 . 一条 俊哉 ☆ ○ ○ 藤宮 優紀 ☆ ☆ ☆ 藤宮 雅美 ☆ △ ☆ 紫野 哲 ☆ ☆ 津原 流 ○ ☆ △ 津原 麗 ☆ △ 霜月 ミサキ . ☆ 月形 唯 ☆ ☆ ☆ 雪川 真紀 ☆ ☆ 水上 こずえ ○ ☆ ☆ 芳賀 昭人 ☆ 榎本 東 ☆ ○ 白河 司郎 ☆ 高雄 映一 ☆ 小林 京平 ☆ ○ 川嶋 涼香 ☆ ○ 明橋 恵 ☆ ☆ 矢崎 修平 ☆ ☆ 羽崎 正宏 △ ☆ 今村 渚 ○ ○ ☆ 『少年』 ○ ○ ☆ ☆
こうして見ると、全てのシナリオに登場するのは『少年』だけということがわかります。3つのシナリオに登場している女の子は何人かいますが、そのいずれも話の流れにかかわっているのは『藤宮優紀』と『月形唯』の2人だけで、サブヒロインである2人が『初回版のパッケージ表面』というのもうなずける気が。
また、シナリオ02の登場人物が多いことも目に付きますが『わき役』ばかりでもなく、一人一人がなんらかの形で話にからんで印象深かったですし、この表もまた完成度の高さを裏付ける一つの証拠ではないかと思っています。
一見『心の傷』の救済を描いたように見えるゲームですが、それ以上に『希望』とはなにかということを描いているような気がします。ちょっとした表現や描写の次元では気になる部分もありますが、雰囲気に合った絵柄で言葉もわかりやすかったですし、同じスタッフでの次回作があればぜひ遊びたいと思っています。
あと、私は以前からPAMELAHのファンなのですが、水原由貴さんがつづった歌詞とこのゲームの世界観はかなり近い気がしています。『涙』など特に『こずえのテーマ』に思えてしまうのですが、これに共感できる方はいつかご連絡いただけると嬉しいです。いつまでも気長にお待ちしています。