メールインタビュー

 ちょうど再販版の発売から2周年ということで、佐々木監督にメールでインタビューをお願いしました。一昨年にもインタビューをお願いしていますが、今回は違った方向や新しい話題で質問を考えましたし、かなり充実したご回答を。

第1回メールインタビューへ
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『ずっといっしょ』は、登場人物に『振り回される』印象が強いですが
  性格設定で意識したことがありましたら教えてください。

 どっちかというと逆で、主人公が振り回されやすいように設定したのです。

 最初、このゲームは僕以外の二人でシナリオを担当していました。ライターの一人が「全部俺が決める」と息巻いていました。僕は別のゲームがマスターアップ前であったこともあって、そっちに任せていたのですが、実際にシナリオのチェックをしてみると、かなりたくさんの問題が発生していました。

 特に大きかったのは主人公の性格設定をきちんと作っていなかったことで、ここを改めて設定しなおす、というのが僕がシナリオで担当した、一番大きな仕事でした。ですが、最初の頃は元のシナリオを活かそうという方向で作っていたので、特に声のあるシナリオ(特にキャラクター登場時)では、主人公の性格はシナリオによって随分と差があります。キャラによっては主人公が妙に積極的だったりします(江藤の登場時など)。
 主人公が積極的な場合、登場人物に振り回されるというよりも、むしろそのシチュエーションを楽しんでいる風に、プレイヤーは感じてしまいます。それはそれで面白いのですが、プレイヤーがドラマの主人公たるTVゲームにおいては、感情移入しにくくなるというデメリットを生んでしまいます。また、登場人物の性格を膨らますことがしんどくなります。
 特に「ずっといっしょ」は(一枚絵の大物イベントを除いて)比較的1イベントの台詞の量を少なめに設定していたので、主人公よりも登場人物にしゃべってもらわないと具合が悪いのです。

 そこで主人公をやや引き気味な性格に落とし込み、「振り回されやすい性格」にあえて設定し、徹底的に書き直していきました。主人公が引き気味になると、登場人物は自己主張をせざるを得なくなり、結果として主人公を振り回すことになります。
 自分の中では当時のわかりやすいキャラとして、「エヴァンゲリオン」の主人公の「碇シンジ」的な性格付けをしています。ただしもっと社交的な方向性に性格は振っておきましたが。そんなわけで、僕の中では主人公の声は緒方恵美さんでした。

 あと僕は寡黙型のキャラクターが苦手で、綾波レイなどは嫌いな部類に入るキャラクターでした。当時ああいった寡黙型キャラが大ブームだったのですが、あえてそういうキャラ作りはしない方向でいきました。パターン的には松田麗美などが近いキャラなのですが、随分とおしゃべりです。

 「ずっといっしょ」の登場人物たちが他のギャルゲーと大きく違うのは、ほとんどの女の子に「目標」が設定されていることです。私は将来何になりたい、どういうことがしたい。でも、今壁に当たっている、自分が正しいと思っていることが本当に正しいのか、自信を失いかけている。そこに巻き込まれる主人公。そんな女の子たちに感化された主人公も成長していく。シナリオ上の具体的な記述はありませんが、プレイヤーにそういったことを感じて欲しいな、と思って書いたシナリオが大半です。特にストーリーイベントは桜子以外全部僕が書いたので、そういった思いが強いです。

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制作にあたって、直接あるいは間接的に影響を受けた作品はありましたか?
  また、誰か特定のモデルがいる登場人物がいましたら教えてください。

 企画担当者の狙いが「うる星やつら」「すくらんぶるエッグ」「翔んだカップル」などといった、70年代末〜80年代初頭のラブコメだったので、あえていうならこの時代の作品全般でしょうか。
 人物のモデルは特にいません。最初にキャラの性格設定が出来た後、自分達の中で熟成させていきました。
 ただ、並木と国見のように、カテゴリが同じキャラ(元気・体育会系)は差別化に随分と苦労しました。

 シナリオを書いているとき、自分の中で「無常感」が必要でした。何をやってもどうにもならない時間。ある意味それが高校時代であるということ。大人でも子供でもない、無常感。これを自分の中で喚起するために、当時川本真琴のCDを聞きまくりました。岬イベントなどは全編、川本の名曲「タイムマシーン」「ひまわり」からインスパイアされたものです。

 あ、それからストーリーイベントの構造を思いつかせてくれたという点で、カプコンの「クイズなないろDreams・虹色町の奇跡」は書いておかなくてはいけないかもしれません。開発中、本当に忙しかったにも関わらず、すごく好きなゲームで、完全クリアまでしました(妖精やリンツまでクリアしました)。

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『時間制限』や『受け身であること』がシステムの特色としてあげられますが
  これらは制作の初期から意識されていたことでしょうか?
  期待通りだったこと、そうでなかったことがありましたら教えてください。

 システムについては、ほぼ最初に企画者と決めたことが最後まで反映されています。
 「誰かとのデートを、別の誰かのスケジュールで上書きさせ、そこからイベントを引き起こす」というのが大前提だったので、これを活かす方向でシステムは組まれました。ただ、年間を通してどういったパラメータ管理をさせ、どうすると何が起こるか、という部分が深堀されておらず、個別イベントをランダムで発生させることになってしまいました。
 「ときメモ」との比較の中で作ったゲームなので、最初はほとんどイベントらしいイベントがありませんでした。代わりにデートイベントを死ぬほど作って、キャラの掘り下げをしようとライター陣は考えていました。
 でもそれは限られた期間での実現は不可能ですし、パターンは出尽くしますし、思っていたほどの効果も上がりませんでした。

 段々締め切りに追われて、シナリオ陣が書きなぐった感じのあるデートイベントをどんどん作っているのを見て、季節イベントとストーリーイベントという、主人公の介入は少ないけれどもキャラの深みは手っ取り早く出せるイベントを後付で作りました。後付で作ったので組み込む仕様が確定しておらず、時間もなく(マスターアップ4ヶ月前に作成を決定)、結局ランダム発生という一番まずい形になってしまいました。
 それでも書きなぐった様なイベントが山ほどあるよりは、ある程度のクオリティのあるイベントが「ちょっと少ない」と思ってもらえる程度の分量を用意する方向で作っていきました。
 最後には、キャラの多さが仇となりましたが・・・・。
 まあ、当時は登場キャラの多さを競っていたようなところがあったので、これはある面仕方がないかな、と。

 回答速度については、サクラ大戦の影響です。
 待ち時間がないと随分緊張感のないゲームになってしまっていて、元々長いプレイ時間がさらに長くなってしまっていたので、若干ではあっても、ゲームのテンポを生み出す要素にはなっていたと思います。
 速度設定が確か4段階でしか設定できなかったので、随分極端な性格付けになってしまいました。

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制作時に、渡辺明夫さんとデザインについてのやりとりがあったそうですが
  その際どのような方針で考えを伝えていったか教えてください。
  また、デザインが決定するまでに時間がかかったのは誰でしょうか?

 正直、女の子達についてはあんまり大きな指示を出していません。
 性格とイメージと方向性を、文章と口頭で説明しただけです。

 僕は絵が描けるので、絵を描いて指示しようかと思ったのですが、スタジオ雲雀に「それはやめてくれ」と止められました。そのイメージに引っ張られて、デザイナーの中で大きくキャラを膨らますことができなくなる、ということだそうです。おかげで、開発中は「ずっといっしょ」のキャラの絵は自分では全くと言っていいほど描いていません。僕が「ずっと」の絵を描くようになったのは、ゲームが発売して暫く経ってからのことです。
 ほとんどリテイクはないですし、見た目の性格が大きく外れていたら直す、といった程度です。桜子、智香などは全然違う方向性で描かせて、そっちがだめで初期稿に戻したなど、錯綜が随分とあります。

 男性キャラを決めるほうがむしろ大変で、全員一回ずつ没が出ています。
 特に桂は第4稿までかかり、全キャラ中一番最後に完成しました。

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ハムスターの再販版は、どういった経緯で発売が決まったか教えてください。
  現在『ずっといっしょ』の版権はハムスターに移っているのでしょうか?

 実はハムスターでの発売以前に、再発売の話がありました。
 ギャルゲーのみのシリーズで安値で再発売するという企画だったのですが、当時は市場に在庫が残っているという理由でこの話を断ってしまい、残念に思ったものでした。

 東芝EMIがゲーム事業から撤退し、紆余曲折を経て版権がハムスターに移りました。
 ハムスターは元々EMIで一緒に仕事をしていたメンバーが作った会社なので、気心も知れています。僕も「雷電」発売を提案するなど、目につきにくい形ではありますが、色々な協力をしています。

 ハムスターがEMIのタイトルを順次再販することになり、2000年の1月頃に「ずっと」を再販したいという連絡が僕のところにありました。もともと直したいところが一杯あったし、それはハムスター社長に常々話していたので、再販をかけるときは是非その部分を直させてくれ、と彼にお願いしていました。

 そんなわけで、「ずっといっしょ」の権利は現在ハムスターが持っています。

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再販版ではグラフィックなど、さまざまな改良が加えられていますが
  制作時の思い出話などありましたら教えてください。

 「ずっと」の直しをしたいということを、製作当時の主要なメンバーに連絡し、プログラマ、音楽担当は協力してくれることになりました。特に不満をもっていた絵周りは、僕がグラフィック監修を全面的に行うことになりました。
 お金の全然ないプロジェクトで、全員のギャラを足しても両手の指で足りてしまうというものでしたが、全員後悔は少しでも減らしておこう、ということで喜んで参加しました(もちろん、全員別の仕事をやりながら、ですが)。

 グラフィックパートで協力してくれたのは、ばくはつごろう君。
 業界10年選手で、当時業界大手K社でゲーム監督をしていました。
 実は「ずっといっしょ」発売当時にK社から出たそこそこ大物ギャルゲーのグラフィック監督なんかもやってます。
 彼には比較的修正が面倒なキャラ(松田や舞など)の修正を依頼しました。
 また、彼は大変な桜子マニアだったので、「桜子のドット修正やりたくなーい?」とかなんとか言って、手伝ってもらいました。残りは僕が担当しました。

 ごろう ・・・ 小野寺、並木、松田、舞、江藤、桑原、若林
 佐々木 ・・・ 石塚、今井、岬、国見、南景子、青葉、立花、男キャラ全般
 (通常の立ちキャラ、ステータス画面)

 また、このときにPhotoShop5.5のバッチを山ほど編み出しました。OPTPiXにも随分助けられました。この二つがなかったら、たった二人で2週間程度で全キャラの修正をすることなんてできなかったです。
 他にも、プレイステーションは一枚絵が縦に伸びるということで、横への伸張率を教えてくれたりしました。この辺のノウハウもさすがに大手だな、と思ったりしました。

 また、プレイステーションの画像形式であるTIMフォーマットをきれいに書き出すツールを提供してくださったNGさん。
 彼は、「ずっと」とよく似た名前で、当時良く間違えられた超ヒットゲームを作り出した会社の社長さんで、同ゲームのプログラマでもあります。
 ハムスターにあったDOSベースのTIM書き出しプログラムを使うと、黒に近い色はみんな「黒」として認識されてしまい、画面に出すとぼこぼこと穴が開いてしまい、途方にくれました。原因がわからず、彼に相談したところ、原因を説明してくれた上に、自社のオリジナルTIMツールを貸してくれました。操作も簡単で美しいTIMを書き出せるツールで、あっという間に問題は解決できました。彼の助けがなかったら、発売はもっと先になっていたかもしれないし、キャラはきれいにならなかったかもしれません。

 この二人は敬意を表して、(本名が載せられないので)ペンネームで再販版のスタッフロールに名前を載せています。

 プログラムの方はやりたいことが山ほどありました。バグも多かったし。
 「みさき ことね」の裏技でお茶を濁していたギャラリーモードもつけたいと思っていたのですが、仕事の分量的に(費用的に)そこまで出来る仕事ではないし、第一そういう大きな仕様を追加すると納期に間に合わなくなる可能性がある、ということでやめました。納期が近かったので、大きな変更は余り出来ませんでしたが、セーブポイントの変更だけは無理やりやってもらいました。

 時間もお金もなかったけど、色々な人の協力を得て、再販版「ずっといっしょ」は、狙い通りとは言わないまでも、随分いい感じに生まれ変わりました。僕にとっては、若干でも遊びにくさを改善できたこと(岬のイベント順が間違っていたのを直せたのと、少しだけクリアしやすく出来たこと)、ずっと不満だったグラフィックに関する手入れを自分の手できっちりとできたことが、本当に嬉しかったです。
(組み込み時にまた混乱があって、ステータス画面の南景子の画像だけ元のままという残念な事態が発生してはいますが)

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『わくわく麻雀』はPalm用に発売されましたが、
  その経緯やエピソードなどありましたら教えてください。

 僕は昔からPDAマニアで、ザウルスやモバイルギアといった、色々なPDAを使いまくってきました。特にIBMのWorkPadC3を99年の11月に購入して、Palmワールドの楽しさにほれ込みました。
 2000年の中頃に「PVNS(Palm Visual Novel System)」という、リーフのゲームをPalmで遊んでしまおうというソフトが開発され、これをダウンロードして、「雫」や「痕」や「To Heart」を遊んでいました。僕は元々ビジュアルノベルが苦手で、「Kanon」をPCで遊んでて、10分で寝てしまったという苦い経験があります。
 ところが、Palmで遊ぶということは電車の中など、暇な移動時間に遊ぶことができ、大変重宝しました。Palmはサスペンドがしっかりしていて、プレイ中に電源を切ったり、他のアプリを立ち上げても、ゲームを立ち上げると続きからプレイすることができます。今はもう出来ませんが、過去のバージョンのPVNSはキー割り当てが少なかったので、メモ帳に攻略法を入れ、他のボタンにPVNS起動を割付け、選択肢が出るたびにメモ帳ボタンを押して攻略を見て、ゲームに割り当てたボタンを押してゲームに戻るという、擬似オンライン攻略のようなことをやって遊んでいたものです。
 そんなわけで、Palmでギャルゲーをやるというのは暇つぶしとして大変有効なのではないか?ということを、またハムスターに提案しまくっていました。「ずっと」をPalmで作ろう、という話を提案していたわけです。
 でもあんまり新規開発に乗り気ではなかったので、ありもののゲームを「ずっと」テイストにする、という提案をし、何とかゴーが出ました。今後の市場のあり方を考えて、何としてもPDAというプラットホームで商売をするという、楔を打ちたかったのです。
 ただ最近は個人向けPDAの売上が頭打ちになっていて、PDAは企業向けの側面が強くなっており、当初考えていた「大人向けゲームボーイ」という市場は形成されなくなっています。Vol.2を含め、今後どういう展開をするか、考えどころに来ています。

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最後に、ファンへのメッセージをお願いします。

 最近僕はBS番組のプロデュースばかりやっていて、自分がディレクションする立場からは随分離れてしまいました。また、ゲーム業界もだいぶ落ち着いてしまい、以前のような一角千金を狙う有象無象が跋扈する、愉快な世界ではなくなってきています。
 正直年齢とか立場的な物もあり、今後はプロデュースのみでやっていくことになると思いますが、ゲームはどうなのかなあ・・・。やっぱ、直接自分が面倒見る(素材を直接いじる)っていうのはできないんだろうなあ、と思います。
 ただ、「ずっといっしょ」という楽しい世界は今後も直接間接、どんな形になるかはわかりませんが、皆さんに提示していきたいと思いますし、周りからも「ギャル企画やれー!」と、口すっぱく言われています。決して忘れているわけではなくて、何らかの形でやろうと、仲のいい構成作家といつも話をしています。
 働いている以上は、自分のやりたいことと、会社の儲けのベクトルをどうやって同じ方向にもっていくかで、日々悩んでいるところです。近いうちに、こういった愉快なギャル企画をやることになったら、また皆さんにお知らせしたいと思います。

 それではまた。

「ずっといっしょ」総監督 佐々木誠毅
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