〜麻雀激闘編〜

Written by 村人。さん.
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まえがき

非常にアホな内容です。書いてて自分で「おいおい」とか思ってました。
以下に該当する方は、読まない方が賢明かと思われます。

  1. 麻雀を知らない方
  2. アホなノリが嫌いな方
  3. 寛大なお心を備えていらっしゃらない方

短いです。すぐ終わります。
予め言っておきます。

…桜子及び美樹のファンの方、ごめん…

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仲間内での旅行の夜には、麻雀がつきものである。
そして麻雀には事件がつきものなのである。
その夜のことも、思い返せば何のことはない、そういった麻雀の付録のような事件のひとつだというだけのことであった。
…きっと…


南四局。桜子のラス親がまわってきていた。
ここまでで持ち点は、桜子10000、美樹14200、智香32300、琴音51500…と琴音の一人勝ち状態を呈している。
桜子は、ここでアガれなければ最下位という危機である。
だがその八巡目、桜子は勝機を掴んでいた。
(理想的テンパイ…いける!トップだって狙えるわ!)
内心ほくそ笑みながら、静かに二筒をきった。ダマテンである。

(安上がりでもいいからここを凌げば、大丈夫…)
美樹はとにかく早くアガって桜子の逆転を防ぎたかった。最初から食いタン一直線を狙う。既に二回鳴き、一向聴までもちこんでいた。
(ちょっと遅いかな…琴音さん、もうテンパってるよねきっと…)
もう一度琴音の捨て牌を確認する。琴音は中と七萬の明刻をさらしている。
(二萬は、通るよね)
美樹は、桜子が既にテンパイしているなどとは全く思ってもみなかった。
そして手元の二萬をきる。
それが、すべての始まりであった…

「それよ」
桜子が厳かに、はっきりと言う。そしてしてやったりとばかりにニヤリと怪しい笑みを浮かべる。
「ロン!清一色ドラ3!親倍で24000点よ!!」
その場が一気にざわめく。美樹など、牌をきった体勢のまま硬直している。
「…24000…」
24000。容赦なく事実。
笑ってごまかそうと泣いて同情を誘おうと、はたまた日暮里の住民100人にアンケートとって聞こうと24000は24000。
「あぁら、美樹ちゃん、足りないわねぇ」
桜子が、これ以上ないというくらい鼻を高くして猫なで声で美樹にせまる。
まさに突発成金の如しである。
「ねぇ、わかってるわよねぇ、美樹ちゃあん…自分の立場」
「え…な、何がですか…?」
「脱ぐの」
「は、はあ……はああああぁぁぁぁぁぁっ!?」
美樹がすっとんきょうな疑問符…限りなく悲鳴に近い…をぶつける。
「“はぁ?”じゃなくて。脱ぐのよ。ハコテンでしょ」
「え、ちょ、そ、そんなコト聞いてませんよぉ…?」
「聞いてるも聞いてないも、常識でしょ!
 “ハコテンになったら脱ぐべし!”
都条例でも決まってるのよ!」
決まってません。
「そんな、イヤですよぅ…」
無意識的に自分を庇うようなポーズをとる。
しかし桜子は容赦しない。その目は完全に獲物を捉えた鷹である。
「…自分じゃできないって言うのなら、手伝ってあげてもいいんだけど?」 桜子はおもむろに立ち上がると両手をわきわきさせて美樹に手を伸ばし…

「ヤ…イヤですーーーーーーーっ!!!!」
美樹も立ち上がって逃げようと試みるが、一瞬遅かった。桜子の右手がしっかりと美樹のワンピースを捉えている。
「ふっふっふ…まずは一枚、っと…」
心底楽しそうだ。
「きゃあああーーーーーっ!助けてーーーーーーっ!!」
美樹が強引に桜子の手を払って逃げる。
「あ、こら、待ちなさいっ!」
「待ちませんっ!!」
「逃げるとすごいことになるわよっ!どうすごいかって言うと答えはこの後すぐっ!イヤなら…」
「フリテンだよ」
「そう、フリテン…え?」
突然割り込んだ琴音の一言で、場は静寂に包まれた。桜子も美樹も硬直モードに入っている。
そのまま琴音が続ける。
「七萬、捨ててる。二五八四七の五面待ちだよね」

琴音を除く全員が同時に桜子の捨て牌に注目した。
七萬は…ない。
桜子が抗議の言葉を上げようとすると、琴音は静かに自分の明刻を指さした。
七萬。左側の牌が倒れている。
左側、すなわちそれが桜子の捨て牌であることを意味していた。
更に重い沈黙が場を支配した。
「え…と…ふ、フリテンなんだ…てへ。し、失敗しちゃった。あはは」
琴音がにっこりと微笑んで続ける。
「満貫払い。親だから12000点ね♪」
繰り返すが、桜子の持ち点は10000点である。
すなわち。
「ハコテン…」
美樹が、抑揚のない声でぽそりと呟いた。
「あ、あたしちょっととっても大事な用事あるの思い出しちゃった。あのね、実は毎日この時間にはもう薬のんで寝なきゃいけないってお医者さんから言われててねそれで…あ、あれ、ど、どうしたの美樹ちゃんそんな怖い顔しちゃって…そんな顔してたら性格だけじゃなくて顔までブスになっちゃうわよ、なんちて、あは…は…」
やぶ蛇。火に油。口は災いの元―――まあなんでもいい。
部屋に黒いオーラが漂うのを、その場にいる誰もが確かに感じていた。
「じゃ、後はまかせるわ」
「以下同文」
「ああっ行かないで琴音ちゃん、智香…ってきゃあああああぁぁぁっ!?」
サバイバルの鉄則その一。決して振り返ってはならない。
二人は先人の教えを忠実に守り、そのまま部屋を後にした―――


「あれ、どうしたの2人とも」
ちょうど部屋を出たところに、彼がジュースの差し入れを持って現れた。
「…ちょっと、ね」
どう返答すればよいのやら。
美樹が逆襲している。いやいきなりそれでは意味不明だ。
実はフリテンだった。重要だが説明になってない。
智香が今日は“けろっぴ”の絆創膏をしている。何の関係もない。
「まあ、いろいろあったのよ…」
何故か遠い目。
「?…まあいいや、まだ2人は部屋にいるんだよね、ジュース…」
「今行けばきっとイイものが見られるわ。でもね、その後の事を考えても、今後のアナタの人生のためにも、今は行かない方がお互いのためだと思うの」
死地に赴く無謀な戦士を説得するかの如く。
額に冷や汗をかきながら、琴音は警告した。
「ていうか、さっきから騒ぎやら悲鳴やら聞こえてるんだけど」
困惑顔で彼はドアに手をかけた状態で止まっていた。
「君子危うきに―――」
「…はい。」

10分後、桜子は押し入れの中に不法投棄されていたところを発見され、無事に保護されましたとさ。
めでたしめでたし。

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あとがき

…だから言ったのに(笑)

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おまけオチ

「…あれ、そういえば七萬鳴かせたのってボクだったような…」
「気のせい、気のせい♪」
気付けよ桜子…

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簡単な麻雀用語の解説

門前・面前(メンゼン)
他家の捨て牌から鳴かず、手の内だけで手を作ること。

明刻(ミンコウ)
他家からポンして作ったコーツ(同じ数牌/字牌が3つ)。

テンパイ
あと1手でアガる状態のこと。

一向聴(イーシャンテン)
あと1手でテンパイする状態のこと。

ダマテン
門前でテンパイしても、リーチをかけないで進めること。

ハコテン
点棒が全てなくなってマイナス状態になること。

フリテン
待ち牌のうち一つを既に捨てている時、ロンでアガること。チョンボ。

親倍
親の倍満のこと。24000点がつく。

清一色ドラ3(門前)で五面待ち
下手な役満より難しいのでは(笑)
「一一一三三三四五六七九九九」 ドラ:三
 ↑でした。もちょっとで九連宝燈…
ちなみにこの手、四七でアガれば三暗刻もついて三倍満(36000点)、さらにリーチしててツモあがりなら数え役満にもなるので、桜子のアガリ方は本来あまり誉められたものではない。せっかくダマテンしているのなら美樹の二萬切りは見逃して四七を待つのが普通。

…最初から美樹をハコにするのが目的でなきゃ、ね(笑)

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