Ever17 −the out of infinity−

【対応機種:プレイステーション2・ドリームキャスト ジャンル:アドベンチャー 発売元:KID】

 この作品を誰にお薦めできるか考えたとき『閉鎖空間からの脱出』という設定だけを伝えてしまうと完全ではないですし、期待を裏切られるかもしれないと思いましたが、その裏切られる方向は『思わぬ』かつ『思わしい』方向かと。

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ゲーム紹介と感想

 『Ever17』は、2002年8月29日(木)にプレイステーション2版及びドリームキャスト版が同時発売されました。海洋テーマパーク『LeMU』で発生した原因不明の事故によって閉じ込められたメンバーが、海上への脱出を試みていくアドベンチャーゲームです。

 ゲームシステムは、これまでの作品と同様に完成度が高く、読み返しや聴き直しの機能はもちろん、以前の選択肢に戻る『クイックロード』や、すでに見た話の途中から始められる『ショートカット』など、遊びやすく作られています。『物語重視』のためか、誰かの話に入るまでの選択肢は少なめですが、ちょっとした意志決定の場面も多く、遊んでいるときは特に気になることもなかったです。

 また『infinity』『Never7』とともに『インフィニティシリーズ』と名付けられていますが、かならずしも事前に遊んでいる必要はなく『Memories Off』と『Memories Off 2nd』よりも登場人物の関連はうすくなっています。ですが、世界観や設定には関連があるように見受けられる描写もあり、いずれの順番でも二作とも遊ぶ方が楽しめるはずです。

 そして、今回は『倉成武』と記憶をなくした『少年』二人の視点で遊ぶことができます。武視点では少年が、少年視点では『倉成武』が一人の登場人物になり、同じ環境でも『違った視点』から物語を楽しむことができます。

 どちらの視点になるかはプロローグ最後の選択肢で決定されます。誰のシナリオに入れるかも視点によって決まっていて、武視点では『小町つぐみ』及び『茜ヶ崎空』のシナリオを見ることができます。いずれかの話に入った時点で、セーブデータ表記が『つぐみ編』か『空編』へと変化します。

 一方『田中優美清春香菜』と『松永沙羅』のシナリオは、武視点のときは見ることができず、少年視点に『優編』と『沙羅編』二種類の違った物語が組み込まれています。ちなみに優は、名前が六文字と長いため省略して呼ばれています。あと、説明書にも記載されていますが『八神ココ』のシナリオは、四人のシナリオを一通り終えたときに『姿を現わす』仕掛けになっています。

 私の場合、最初のエンディングを見たときは素直に『脱出もの』として楽しい作品と思いましたが、それ以降は次第に『違和感』がふくらんできました。それは登場人物とともに気が付く違和感もあれば、ちょっとしたセリフやイベントグラフィックの違和感もいくつかあり、期待通りの『意外な展開』が拍車をかけました。

 それらの『積み上げられた』違和感は、最終章となるシナリオで全て昇華されます。謎解きでは『パズルのピース』という考え方で捉えることがありますが、それどころか『複数の違ったパズル』が一つにまとめられたような印象すら受けました。つじつまが完全に合っているとは言いがたいですが、それを『こまかいこと』と思わせてしまうほど迫力ある作品に仕上げられていると思います。

 一方、はっきりスタッフの『遊び心』が見える部分もあったり、さまざまな専門用語が飛び交ったりして好みがわかれるとは思いますが、完全な拒否反応が生じないかぎり途中でやめることは惜しい作品で『Memories Off』から始まる一連のオリジナル作品に一つでもお気に入りがあれば、かならず期待にこたえるかと。

 また私には四人のうちの、とあるシナリオも印象に残りました。『心』の問題を描いた作品はめずらしくないかもしれませんが、この作品では『実体』まで踏み込んだ物語が一つの結末として描かれていて、かなり私は引き込まれました。

 武視点のときに、もう一人の女性が『ソフトウェア』と『ハードウェア』の問題について語る場面がありますが、それは実は二人に共通している問題であり、純粋な気持ちで『ソフトウェア』にひかれていく武には共感できましたし、途中で見られる『水』の場面も『彼女』の側から考えると『できるかぎりの行為』であり、魅力にも感じられました。

 その一方で、外見が鍵を握る要素だったという冷笑的な見方もできるわけですが、改めて考えてみると、ふつうの相手に対する印象も『ハードウェア』と『ソフトウェア』が絡み合っていて、もはや割り切れない永遠の問題と思っています。でも、たとえ話には共感できなかった私としては『ピグマリオン効果』の結果よりも、そこまでの過程こそが一番の『本当の気持ち』ではないかと思うわけです。

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夏と冬の奏鳴曲

 麻耶雄嵩さんの『夏と冬の奏鳴曲(ソナタ)』という小説があります。

 かつて一週間だけ上映された『春と秋の奏鳴曲』という映画。主演女優の『真宮和音』とともに孤島で共同生活を送る男女がいた。しかし『和音島』の楽園は、和音の『死』により一年間で崩壊する。その二十年後、生き残った五人が同窓会と称して和音島に再び集う。

 原罪を負った主人公『如月烏有』と、無邪気な美少女『舞奈桐璃』は、この同窓会に取材のため同行する。そこで巻き起こる『真夏に降る雪』の中の密室殺人。和音の墓から海に捨てられた鈴は、なぜか桐璃の手の中に。『うゆうさん』『うゆーさん』と慕う桐璃を守ろうとする烏有。遠近法とは違う手法で、三次元の対象を二次元の平面に映す『キュビズム』理論に基づき描かれた四枚の絵画。次元を超越した『神』として存在する和音の『展開』という謎の言葉。そして、ついに映画が再生されるとき…

といったストーリーで『推理小説』における魅力的な題材を『積み上げた』作品ですが、あまりに『アクロバティック』な展開はいかなる可能性を考えても『矛盾』を取り除けず、刊行当時から評価がわかれている作品です。

 この作品を取り上げた理由は『Ever17』を遊んでいるとき相似性を感じたからです。以前にも『Never7』の世界観によって小説を理解できないか考えたことはありますが、はっきり意識したのは『Ever17』の最終章を見てからでした。といっても仕掛けが同じわけではなく、あくまで『相似』ですが、たとえば現在の私は『時間軸をもつ絵画』として映画を認識できたりと、小説を読み解く『きっかけ』にもなった次第です。

 一方では『鴉』や『木製の王子』など、これ以降の麻耶作品も『カタストロフィ』という表現が適切な作風ですが、それに対して『Never7』及び『Ever17』で描かれる結末は『グランドフィナーレ』の言葉に象徴される再構築であり、この部分については違いが見えます。結末には京極作品を意識した言葉もあったりと、ゲームという枠組みから『推理小説』の楽しい要素を追究している雰囲気も。

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リンク

  1. 自由学芸堂ドイツ語
  2. ピグマリオン効果
  3. 複合現実テクノロジーの先導者
  4. 劇場版 ソードアート・オンライン
  5. 季節の変わり目。
  6. “シロガネーゼ”はメッセンジャーがお気に入り
  7. インフィニティシリーズガイド
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  13. 疑似歴史学事典/ムー大陸
  14. 俳句の作り方
  15. アメリカンジョーク
  16. 夏と冬の奏鳴曲 (講談社文庫)
  17. 夏と冬の奏鳴曲 (講談社ノベルス)
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